第3話プロローグ③MiNA
そこは郊外あるごく有り触れた作りの白い二階建ての家
モデルハウスなのだろう
今、その室内で3人の大人が話しをしていた
「鎮静剤を射ちましたから今は静かにして置いてあげてください」
とその男は微笑みながら優しくその言葉を目の前に立つ夫婦へ届けた
その夫婦は痛い程に伝わる不安を称える目で
その初老の男を見詰めていた
男は、湯長と言う精神科医だった
あんな事があったのだから無理もなかろう
そう思いながら、湯長はまた夫婦に言った
「今後、美奈さんには心のケアが必要です。治療が必要だと思います。今は見守る事が最善です。」
湯長少し顔を曇らせながらため息混じりそう夫婦に説明をすると
美奈の母、彩は咄嗟的に制止する夫を余所に湯長へと身を進ませて詰め寄り
「美奈は、美奈は、あんな娘じゃ無かったんです!、暴れたり、叫んだり、あんな事をする様な娘じゃ無かったんです!」
涙を流し悲観の声を上げた
そんな彩に夫である輝雄は優しく身を絡らませながら「仕方がないよ、もう起きてしまった事なんだ、これからだ、これからだよ、
だから今は先生に頼ろう」
その夫の言葉に彩は身を震わせながら泣きじゃくっていた
そんな様子を目にしながら、
これはまさに悲劇だな。
今の湯長はその言葉を痛々しく噛みしめていた
そして湯長は間を見て穏やかな口調で夫婦、特に落ち着いて見える夫、輝雄に向かって
今は取り敢えずこの夫婦の気持ちに触れるセンシティブな言葉は出さぬ方が良かろと、ほんの心遣いとばかりに
「とにかく、今はご両親であるあなた方が娘さんには必要です。私も微力ながら力にはなりますので」
そう仕えると
この家、葉月家を後にする支度を始めた
輝雄は家の扉に手を掛けて出て行こうとする
湯長の背中に向かって
「先生、こんな時間までわざわざ来て頂きありがとうございました」
と心からの礼の言葉を唱えた
やがて湯長は葉月家を後にした
そして、そこに残された夫婦は互いに
「大丈夫、大丈夫だよね?、美奈は大丈夫だよね?」
「ああ、大丈夫、大丈夫だ」
夫婦は美奈の自室へと行き
ベッドで寝息を立て静かに眠る我が娘、美奈に安堵の目を向け見詰めた
美奈の寝姿は今の中学生の時よりもっと前の小さな頃そのままだった
安らかに静かに寝ていた
その姿に悲しみの漂う微笑みを投げ掛けた
家の中は安堵に満ちていた
しかし、キッチンや食卓や居間などには、無数の割れたガラスや食器などの破片がまるで牙向く凶器となり散乱し、その至る所の壁や床にはその瓶の中身であったであろう、ジャムや調味料などの物が、まるで血糊の様にそこで起きた何かを物語っていた。
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