カマキリ系カノジョ

佐々井 サイジ

第1話

 あと一分。あと一分で萌(もえ)と付き合って半年記念日になる。女の子なのに虫好きっていうちょっと変わったところはあるけど、性別で趣向を判断するのは良くないよな。虫を触れない僕みたいな男もいることだし。

 〈23:59〉と表示されたスマホを瞬きせずに見つめ続けている。小さく息を吐くと一桁減り、〈0:00〉の表示に変わった。

『萌、半年一緒にいてくれてありがとう! 人生で初めて付き合った人が萌で本当に良かった。いっぱいいろんなとこ行ったけど、萌と一緒にいるだけで幸せです。これからもよろしくね! 大好きだよ』

 事前に打っていた文章を萌に送った。スマホの画面が自動で暗くなる前に萌から返信が届いた。

『こんなわたしを好きでいてくれてありがとう! 私もゆうちゃんと一緒にいるだけで幸せ! ゆうちゃん大好き!』

 ベッドの上でスマホを抱きしめた。なんてかわいいんだろう。ここに萌がいたら肋骨が折れるほど抱きしめてしまったに違いない。萌と出会えて本当に良かった。

 萌のアイコンは出会ったころと変わらず、緑がかった半透明の目で画面の向こうを睨みつけている大カマキリの頭だった。いや、何度かアイコンは変わっているが、どれもカマキリの頭の拡大写真だった。萌は虫の中でもカマキリを偏愛している。

 明日は萌と大学で合流してから夜ごはんを一緒に食べて、萌の下宿先で泊まり。萌のことが大事に思いすぎてキス止まりだったけど、明日の夜には萌と一つになっているのか……。鼓動よ静まれ、鼻息よ静まれ。

 ただ萌の下宿先に行くのはちょっとだけ抵抗がある。萌は部屋の中でカマキリを飼っているらしい。僕は虫がそんなに好きじゃないから、その空間に居続けられるかが不安。でも初めて萌と一緒に過ごすんだ。それくらい我慢しなきゃいけない。アイコンの大カマキリの頭も最初は指で隠していたけど、今は直視しても鳥肌が立たなくなるくらいには慣れた。今の僕なら大丈夫だ。何度か唱えながら目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る