思いついた時に書く短編集 

モリイ

2月20日 白船

「ミヨ、船を出す。しっかりと掴まっておけ」兄上はボソッと呟いた。

「は、はい」私は咄嗟に応答する。

その瞬間兄上の手船は透き通った青い海にゆっくりと浮かんだ。

「わっ_!」私は慌てて船に飛び乗る。

兄上は船を前へと漕いでいった。

船は小さな紙の旗が付いていてブリキのおもちゃのようであった。


「白…」私は俯きながらながら呟いた。

兄上はこちらに振り向いた。

「いや…何も」私は顔を赤くして言う。

船には雨のように水飛沫が飛び込んできた。


兄上の視線の先には赤い屋根のモーターボートが見えた。かなり遠くだが、色合いのせいか、はっきりと見えた。

「ミヨは初めてか?この船に乗るの」兄は突然言った。

「はい。水面が輝いていて綺麗です」私は船の端に身を乗り出して水面を見下ろした。

じっくりと見ると海はゆったりとしていて、どこからかこちらを見つめているようであった。


「兄上、漕ぐの代わっても良いですか?」

「あ!ウミツバメだ!」兄上は話をそらすようにして言った。

翼が長く、兄上が指を指した鳥は軽快に海面を歩くようにして飛んでみせた。


「可愛いですね」私と兄上は小さく微笑んだ。

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