本命ヒロインである幼馴染は匙を投げた。
蒼
第1話『全米が泣いちゃうくらい面白いよ』
4月中旬を過ぎもう何日か経てば、ゴールデンウィークという子どもも一部の大人も大喜びな期間が訪れる。それはオレも例外ではなく、だから普段から億劫な登校がより一層足が重たくなる。
その事をどう感じ取ったかは分からないが隣を歩いている、
「急に謝るなよ、どうしたんだ?」
当然の疑問を口にする。
「退屈そうにしてたから……私なんかといても楽しくないよねって。私が、その、寂しいからって理由で毎日一緒に登校してもらってるけど───気にしないでいいから、他の人と登校して良いからね」
皐月はどうやら誤解をしてしまっているらしい。誤解を招いたのは明らかにオレが原因なので
「ごめん、違うんだ。そういうんじゃないんだ。退屈そうにしてたのは学校に行きたくないからで、皐月といるのは楽しい───いや今は違うか。落ち着くんだよ、だから一緒に登校したい。じゃないとサボリそうだ」
「学校に行きたくない……も、もしかして
「なんでそうなる……。オレは別に、学校に行くのが生きがいだ、みたいなそんな真面目人間じゃないだろ。珍しい発言でもないし。そんなこと幼馴染のお前が一番よくしってるだろ」
幼稚園からの幼馴染で、同じ小学校、中学校、そして現在は高校と続けて共に過ごしているんだからそんな何度も聞いたセリフに新鮮な反応をされて少々戸惑う。
「……ごめん、ジョークのつもりだった」
「分かり辛いって」
「うっ、ごめん」
「いや謝らなくていいから」
オレの気分を上げる為の皐月なりの気遣いなのだろうけど、少しずれていた。ジョークというには言葉選びが危うく、これで一笑いを引き出そうとしていたのなら他の人間との関り方が不安になってしまった。幼馴染として、そして────。
「あんまり皐月から学校に行くのが面倒とか、行きたくないって聞かないけど、学校は楽しいか?」
とても同じ学校に通って同じクラスに所属しているオレが聞くことではなく、本来なら親族が聞きそうな事を聞いてみた。
「楽しい、かな。
最後は何故か少し恥ずかしそうに言うと、頬を赤らめ視線をオレから逸らした。その事には敢えて触れずにだけどフォローだけはしておく事にする。
「オレも皐月と同じクラスで嬉しいし有難いよ」
「えっ、そ、そうなの?」
「ああ。おかげで友達が居ないオレもグループ作る時に困らない」
「桃歌ちゃんも葵ちゃんも他にクラスに特別仲が良い子がいないから私を含めて3人だからね。誰かをあぶれさせる為に話し合ったりじゃんけんをする事にはならないから、それに関しては困らないんだけどね。けど……やっぱりその、疑われるっていうか、噂されるっていうか……」
男女が特別仲良くしていれば幼馴染と言っても周囲の人間は納得せず、子どもだろうが大人だろうが男女の関係を疑い、そしてそうであると決めつけてくる。そんな事は今までもあって、だからもう慣れてしまったオレとは違い、皐月はまだ気にしてしまうらしい。女の子だからその辺はやはり気になってしまうのだろう。
「ほ、ほら!もしこの先────いやもう居てもだけどさ、遠夜にさ、その……好きな人が居たら都合が悪いかなって」
「そうなのか?」
「そりゃそうだよ!私と……つ、付き合ってる、とか……そんな事噂されたら駄目でしょ。ただでさえ確率が低い成功確率がもっと低くなっちゃう」
「はっはっは、なんだちゃんとまともなジョークも言えるんだな」
「え」
「……え?」
なんの事か分からない、そんな表情を浮かべる。素直な皐月にそんな仕打ちをされると流石に少しへこむ。
「都合が悪いって言ったらさ、それはオレだけじゃないっていうか、どっちかっていうと皐月の方だろ。幼馴染から見ても可愛いし」
「ふぇっ!?」
顔を赤くし少しオレと距離を取った皐月を見て思っている事をそのまま口にしてしまったのが軽率だったと理解し、後悔した。
しかし吐いた言葉は戻せない。
「可愛い……だろ、うん。多少の好みの違いはあるかもしれないけど、他のやつらも同じように思うやつが多いはずだ」
「そっ、そんな事ないよ!絶対、私なんかよりも相応しい人が遠夜の前には現れるよ」
「ちょっとまて何の話をしてるんだ。明らかに話が嚙み合っていないぞ」
「あ、あぁ!ジョーク────ジョークの見本を見せてくれたんだね!いやぁ、なるほどね、あはははは、面白いなぁ。全米が泣いちゃうくらい面白いよ」
「『全米が泣いちゃうくらい』って感動する映画に使うやつだと思うぞ。コメディとかホラーにはあんまり使わない表現だろ。あと、ジョークじゃないから」
まぁ、可愛いと言われて『当然』とか『知ってる』と恥ずかしげもなく言えるやつは少ないし、言わない女の子の方が褒めがいがあって良いんだけど……ジョークと捉えられるのは都合が悪い。
とはいえ、これ以上この話題を広げるとこちらも火傷をしかねないので別の話題へと話を移したのだった。
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