第8話 悲しませて……しまったようです
朽ちた城門にて、いきなり遭遇した。
棍棒を振り回す一つ目の巨人は、ここを通すわけにはいかないとばかり立ち塞がる。
「このサイクロプスは強烈な毒を吐きます。毒消しの魔法はディフェンダーのヤスへ集中させます。だからレオンはアタッカーとして……待ってください」
ヒーラーであり今回の戦闘において指揮も担う魔術師アランの制止を振り切った。
おおりゃー! と叫び突っ込むレオンである。
剣と棍棒が火花を散らしてぶつかり合う。
戦いが互角であれば、敵のモンスターは次の手に出た。
サイクロプスは口から紫状の煙りは吐く。
浴びれば攻撃に特化したキャラだけにたちまちにしてHPを減らす。現在のレベルや装備ではきつい。そう時間をかけずに死亡となるだろう。
寸前でレオンの前に立ち塞がった。
盾を掲げヤスが紫煙を真っ向から受け止める。
「ここは任せてください」
力強い言葉を投げてする、ディフェンダーの仁王立ちだ。
頼もしいとしたのは、レオンだけでなくアランもである。
三人は力を合わせ、難敵サイクロプスへ立ち向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「だぁー、なにやってんだよ、ヤスオ。やられてんじゃねーかよ」
「そう言いますが、アランの回復魔法を出すタイミングが悪いと思うのですよ」
結局、サイクロプスに敗れた原因をなすりつけ合うアランの中の人である
あははは、と
そんな彼女へ、ばっと凪海だけではない、ヤスオの顔だってへ勢いよく向く。
「あ、あれ。ど、どうしたの、ふたりとも……」
しどろもどろといった未亜だ。
「凪海〜、おまえなー」
「わかっているでしょう、我々が何を言いたいのか。レオンなら」
作戦無視の攻撃は毎度のこととはいえ、今回は少し度が過ぎた。モンスターが強敵であればこそ連携が勝利の要となる。
「今日の未亜は止まらなくなるのな。一度、突っ込みだすとどうしようもねぇー」
「攻撃しだすと手が止まらなくのは、逆にレオンらしいっといえばレオンらしいですけどね」
冷静に分析したつもりのヤスオの脇腹を肘が小突く。
なんだと目を向ければ、にやりとした凪海がいた。
「おうおう、ヤスオ。ずいぶん未亜の肩を持つじゃねーか。一週間一緒に暮らしたら特別かぁ」
「ななな、なにを言うんですか、この人は。そういうゲスい色眼鏡はやめていただきたい」
妙に慌てるから、相手を調子へ乗らせてしまう。
顔を赤くして必死に抗弁するヤスオをからかう凪海の構図がしばらく展開した。
ゲーム上ではディフェンダーも実生活では見た目通りのか弱さだ。ヒーラーに一方的にやられ続け、アタッカーが間に入ってくれなければどこまで醜態をさらしていたか、わからない。
「まったくぅ、
ぜぇぜぇ、ヤスオは猛攻を受けて吐く息の下で気づく。
未亜と凪海が驚くあまりといった感じで硬直している。一瞬でしかなかったが、不思議であれば理由を尋ねかけた矢先だ。
「ヤスオがついに名前を呼んだー」
ひときわ大きく凪海が解答を示すものの、所詮はヤスオだった。
「なにを言っているんですか。いつも名前くらい呼んでいるじゃないですか。呼ばなければチームプレイになりませんよ」
やっちゃんらしいなぁ〜、と未亜が笑いながらである。
「アランじゃなくて凪海の苗字のことだよ」
あっ、とした顔をすぐに赤くするヤスオだ。
「そそそそ、そうでしたか。そ、それはついでしてしまい……すみません」
「別に謝ることじゃないんじゃない。やっちゃんなら、名前で呼んでくれてもいいくらいなんだし」
「そうだぞ、ヤスオ。別に意識することじゃ……もしかして、オレに惚れたか」
怒涛のダブル攻撃に、ヤスオはたじたじだ。ただ黙っていたままでは、さらにからかわれるのは目に見えている。何か言わなければとする一念だった。
「じ、自分なんかが女性を名前で呼ぶと、好意を持っているように取られて気持ち悪がられるんですよ」
口にしてから、後悔は先に立たずとしたヤスオだ。昂るまま恥ずかしい過去を匂わせる発言を力いっぱいしてしまった。
もう大笑いされる、間違いなくされる。そう予想していたから、
笑うどころではない。しん、とする女性二人は憐れみとも悲しみとも言える表情を湛えていた。
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