長年連れ添った【剣】と【槍】がヒロイン面(激重感情)で俺に迫ってくる件〜〜〜〜異世界転移したけど、チートも特殊能力も無かった代わりに武器にだけは愛された男、無双する

皆月菜月

第0話プロローグ

『グリム・エルゼローツ』こと俺は走り去ってゆく勇者の姿を尻目に眺めると剣と槍を再び握り直す


「これが最善手だからな……恨むなよ?」


 そう、これはただの最善の選択。これ以外を選択すれば人類は滅亡する

 そんな瀬戸際のひとつの選択


 ただ少しだけ……誰かが引き止めてはくれないか、戻ってきてくれるのではないかと言う淡い期待を抱いていたのは多分俺の気の迷いだろう


 背後で扉がものすごい勢いで閉じ、封印魔法の音がガチャガチャと鳴り響く


 俺は強く、高らかに眼前の獲物に投げかける


「───さぁ!……真なる魔王『クロノ=プラー・ナリア』よ!……貴様の望みは今潰えた! 残念だったなぁ?」


 投げかけられた……まるで神殿のような巨躯をゆったりとうごめかす『クロノ=プラー・ナリア』

 表情はさながら天敵と相対あいたいしたかのような表情を醸し出していた


 その伽藍がらんのような瞳に俺は見据えられ、思わず逃げ出したくなるが

 それをすれば、世界は終わる。あれだけの犠牲を払って戦った仲間たちの無念が無駄になってしまう


 だから俺はその震える心臓を無理やり叩く。何度も 何度も 何度も


『貴様は理解が出来ぬ────見捨てられたのだろう?哀れな少年よ ならば我の仲間となれ さすれば貴様に復讐の機会を与えてやろう』


 神殿のような装飾の内部から甘いささやき声が聞こえてくるが、俺はそれに耳を傾けるつもりは一切無かった


「……復讐? 見捨てられた? ふん……何を言っている? 俺はこれが最善手だと理解して行っただけだ」


 剣を構え、槍をそれにピッタリと合わせる

 もはやコイツと対話するメリットが浮かばなかったが故に


「それじゃあ魔王『クロノ=プラー・ナリア』……お前の権能の全て、俺が尽くをねじ伏せてやろう……さあ、長い長い根比べの…………幕開けだ!!」


 俺は見据える。神殿のようなそれを

 その視線を遮るかのように、プラー・ナリアの権能により呼び出されたが次々と現れる


 その見た目は間違いなく。確か姫様の説明ではと言っていたっけな?


 俺はそいつらに斬り掛かる。当然、相手も同じように斬り返して来るが


「ッ!遅い!……ふむ、やれるな」


 首筋を狙った剣により、そいつは糸を切られた人形のようにばたりと倒れてチリとなって消えてゆく


「あいにくこちとら、魔力もスキルも無いんでなぁ……消耗戦には向いてんだわ……っー訳で……」


 俺は槍をくるくると回し、後ろから走ってきたヤツの首に差し込み

 そのままなぎ払いながらついでに数体程を纏めて地面にめり込ませ、そこに剣を落とす


 いい感じに倒せた……が、当然こんなもんじゃ無いよなぁ……


 神殿の内部からは次々とが走ってくる。

 ──まあ自分との戦いとか、ゲーマー的には慣れっこだからなあ


「俺がどれだけミラー対戦やってきたと思ってんだァ!行くぜ!!」


 そう言って無数の、地面を埋め尽くすかのようなの軍勢にこの俺『グリム・エルゼローツ』は雄叫びを上げながら突っ込んでゆく


 ────さてと、根比べと行きますか


 ◇



 なぜこのようなことになっているのか?それはことの始まりから説明すべきだろうか


 俺は地球という星に生まれたごくごく、普通の日本人の男子だ


 俺の人生は至ってまともで至って普通。

 ホビーにハマってお母さんに買って買って!と泣き叫びぶん殴られたこともある


 ゲームにハマり、睡眠時間をどれだけ削れるかのチキンレースをしたこともある


 ライトノベル、特に異世界ものが好きすぎて授業中にクラスメイトたちと異世界に飛ばされて無双する物語の妄想をしたこともあった


 グッズに金を注ぎ込みすぎて、昼飯を抜く羽目になった事もあったっけな……


 そんなただのオタクと呼ばれる分類の、至って普通な青年だった


 そんな俺が高校生活2年目の時に俺の運命は切り替わってしまった


 ───あの日、俺たちのクラスメイトは修学旅行の最中だった。

 そしてバスごと異世界に転移した


 俺ももちろん異世界に飛ばされた……だが案外あんがいみんな冷静だったというか、すんなりと異世界ということを受け入れていたのはさすがにびっくりしたけど


 自分たちの役割を割り当てられたクラスメイトたちは皆真面目にその役目を遂行していた


『勇者』なんていう役柄を貰ったやつもいた

 そいつは誰よりもみんなのことを考えて冷静に動き、一番に戦地に向かっていくような奴だった


 だが俺はだった。

 魔法も使えないし、スキルも特技もない。


 そんな俺の事をクラスメイトたちは誰一人として見下さなかったし、見捨てなかった

 だから俺も、自分にできることを精一杯行うことにした


 剣を手に取り、槍を持った。騎士団長の教えもあり、俺はどんどんと剣と槍を上手く使いこなせるようになって行った


 魔物を1人で討伐できるぐらいまで俺は気がつくと成長していた


 皆が世界に慣れ始めたとある日のこと


『魔王』が現れた。そいつが現れたと同時に世界各地で無数の活性化した魔物や、『魔族』と呼ばれる上位の魔物や魔物を信仰する宗教『邪神教』などが世界各地を荒らし初めてしまった


 だが、3年間かけて鍛え上げた俺たちの敵ではなかった


 とはいえ、魔族は強かった。同行する騎士や冒険者が次々と犠牲になってしまった

 俺も目の前で死んでいく仲間を見て自らの弱さを呪ったことすら幾度と無くあったのだが


 それでも着実な戦績を重ね、ついに勇者は魔王を討伐することに成功したのだ


 さてここからが問題なのだ。


 魔王を倒したその瞬間、王都近くに点在していた『時間神殿』が起動したのだ


 そして『真なる魔王』がその神殿に姿を見せたのが先日のことだ


 そいつはハッキリ言って化け物だった。魔王との戦いでボロボロ出会ったとはいえ勇者達を含む俺ら全員でも歯が立たなかった


 ───真なる魔王『クロノ=プラー・ナリア』


 コイツは『時間神殿』と融合し、無敵の力を得てしまっていた。

 それこそが殿というイカれた能力

 これにより、勇者を大量にコピーされたことで俺たちはボコボコにされてしまった


 そして勇者はその戦いで致命傷を負い、やむなく戦線を離脱せざるを得なかった


 だが、この化け物をほっておけば神殿は拡大され……そして無限の時間を司る『時間神殿』の力で倒した魔物を増殖、蘇生させられれば間違いなく人類は滅ぶ


 俺はどうすべきか話し合うクラスメイト達。だが俺は簡単な答えだなと鼻で笑って見せた


 それは解決する話だったからだ


 反対するクラスメイト達、いや同士たちを俺は説き伏せる


「───お前らは特殊な能力を手にしてるからな、増えると厄介だ……だがと」


 実を言うと、天命を感じていたのだ

 俺と言う無能力者が何故、異世界に呼び出されたのか

 それはここでこいつを倒すためなのでは無いのか?と


 その言葉に、もはやクラスメイトたちは何も言えないようで……ただ、わかった。


 そういうとみんな笑顔で……いやあれは違うな

 笑顔で俺に『行ってらっしゃい』と言ってくれやがった


 まあ勇者は最後の最後まで反対してたのでな、腹パンで眠らせて外に運び込んでもらったんだが



 ◇


 さて、そうして俺は剣と槍を携え……マジックアイテム『貪食どんしょくの指輪』……倒したやつから魔力を奪い取るアイテムと


生命を固定せし烙印ペースメーカー』……生きるために必要な要素を魔力で補うそれ


 を装備し、立ち向かったわけだ


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ──────────





 さて、今は何時だろうか?


 俺はもはや剣を振るう感覚が無くなっていた。同様に槍を回す腕もまるで真鍮しんちゅうの鎧のような硬さになっていた


『時間神殿』内部では時が極限まで遅くなるという性質があり

 それを利用して俺は戦い続けた


 ──────100年は経ったかな?







 ───────1000年ぐらいたったのかもな




 ─────今 は



「─────────おう、やっと出てきたか?」


 神殿の主。クロノ=プラー・ナリアの本体

 即ち、魔力構造体であるそれがついに姿を表した


 なんのことは無い、もう神殿を維持する魔力もないのだろう

 分身体を呼び出す力も残っていないのだろう


「さて、……お?怯えてる……はっ、当然……か」


 その瞳、つぶらなまなこには恐怖と、困惑と、怒りと、絶望と


 色々と入り交じっているそれを俺は眺めてゆっくりと剣を突き刺す


「じゃあな、真なる魔王様よ……さようなら……だ」


 ボロボロとその体が崩れ始める。

 それに合わせて『時間神殿』も同じように外側から崩れ始めた


 崩壊の音がこの化け物の鎮魂歌レクイエムになることを願って俺は剣と槍を地面に刺し……


 久方ぶりに横になる




「─────綺麗な星だ……」


 俺はゆっくりとまぶたを閉じようとする、疲れた

 その感情はもはや滝のように俺の体を締め付ける

 ────動きたくても動かない/まあいいか


 だが、もう気にすることでは無い


 俺は役目が終わったんだ……


 俺はかろうじて刺さっている剣と槍を僅かに動く手で撫でる


 何年間戦ったのか、分からないけど……その見た目はもはや原型を留めておらず、そして


 時間神殿の崩壊に合わせて段々崩れ始めていた


 時が動き出した弊害を受けているのだろう


「─────今までご苦労さま……ふふふよく、最後まで持ってくれたな……俺の愛剣と愛槍……」


 はるか昔の記憶の記憶。

 この槍と剣を鍛冶屋のおっちゃんに作ってもらった日を懐かしみ


 俺は目を閉じる






「おやすみ」







 ◇◇◇◇










『ーーーーーーーーー』




 誰かが喋っている?


 俺は目を開ける。何故か分からないが、頭には柔らかな感触が伝わってくる


 俺は目を開け



 ───────へ?



「あ、起きました?!おはようございますマスター!」


「ったく、心配させないでよね!まったくもう!」



 ─────美女二人に俺は膝枕され、顔を撫でられていた


 ひとつ言っておくが、俺は転移前から転移後も等しく女の子とは縁がないタイプだ



「─────君ら誰?」


 2人は不思議そうな顔をすると


「────え?貴方様と長年連れ添った剣ですが?」


「────え?貴方様と長年連れ添った槍ですけど?」











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