その2
そのときおれは、クラスの友人と、下校していた。
おれの通っている高校は、自宅のすぐ近くにあった。「通うのがラク」という理由だけで、おれはそこを受験したのだ。
おれたちは、交差点で信号待ちをしていた。クルマがほとんど絶え間なくおれたちのまえを行き交っていった。
すでに七月に入っていて、直射日光がおれたちの頭上をジリジリと焼いていた。フライパンに生卵を入れて、アスファルトに置いておけば、数分で目玉焼きができるはずだ。
「お前、知ってるか?」隣に立つ友人がふいに言った。
「え?」とおれは答えた。暑さで頭が朦朧としていた。
「K町でさ、幽霊が出るって話」と友人は続けた。
「お前、21世紀も、四半世紀が終わりかけてるんだぞ」とおれは言った。
「この話、本当らしいんだ」友人は神妙な顔で続けた。「うちの学校でも、何人か目撃していて、証言もだいたい一致してるって……」
「どうせ、友だちの友だちから聞いたんだろ」おれは言った。「信憑性薄すぎ」
「今度、見に行こうぜ」友人は言った。「お前、どうせヒマだろ?」
「嫌だ」おれは、信号が青になった交差点を歩き出した。
「お前が来なきゃ意味ねぇよ」友人が、おれの背後から言った。「お前は、見えるし、声も聞こえるし、触れもするんだからよ」
「言い過ぎだ」おれは交差点を渡り切ってから言った。「あいつらは意識体だから、触れはしない。物理的な肉体を持っていないんだ」なかには、物質化できる存在もいるらしいが、おれはいままで見たことがない。
「いいから行こうぜ。今週の日曜にでも」友人は無理強いをしてくる。
「絶対やだ」嫌なものは嫌だ、とハッキリ主張するのがおれのポリシーだ。そんなことで壊れる友情なら、そいつはそもそも友人じゃないのだ。
「じゃあな」おれは友人に背中を向けて歩きだした。「またあした」
「あれ? お前んちそっちだっけ?」と友人は言った。
「用事があるんだ」とおれは片手を小さく振った。
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