第21話 第五層

 私たちは第五層へと降りてきた。

 

 私は最初、相手がゴブリンからオークへと変わっただけで、やることは第四層とあまり変わらないと思っていた。

 相手が手に武器を持っていて何匹かの群れで行動するのも同じだし、時々頭が良いのがいて、他のオークに指示をして挟み撃ちにしてこようとするのも同じらしい。


 しかし、ゴブリンと違ってオークは身長が二メートル近くあるし、筋肉が発達していて力が強い。武器の振り下ろしによる一撃は強烈だ。

 いかに前衛の二人が鍛えていると言っても、強烈な攻撃を盾でまともに受ければダメージを受けかねない。だから、なるべく遠くからサブマシンガンや魔法で倒すことが重要になるということだ。

 

 私たちは、まずは第四層と同じ様に第五層に降りたところでオークたちを待ち受ける。

 笛を吹いてしばらく待っていると、前方にオーク達が集まってきた。

 

 オークの外見は、ゲームで見受けられるものとほぼ同じで、豚の手足が太く長くなって二足歩行している感じだ。

 口に牙が生えているので、豚と言うよりも毛のない猪と言ったほうがいいかもしれない。そして、手には槍や剣を持っている。


 しかし、ここでも私のファイヤー・ボールは無敵だった。

 三メートルの大きさのファイヤー・ボールを放つと、オークは体が大きい分避けることが出来ずに、ほとんどが焼死する。

 あとはかろうじて生き残ったオーク達が向かってくるのを、サブマシンガンなどで倒していくだけだ。

 

「いいわね」 

と、ジャネット。


「アケミが加わってから、倒すのが楽になったぜ」

雄一も。 


 私は照れくさくなって、話題を変える。

「でも、本当にゲームの魔物と一緒よね。笑っちゃいそう」


「でも油断はしないほうが良い。オークは槍を投げてくる可能性もあるからな」 

「そうね。あれ? そういえば、ゴブリンとかオークの中には魔法を使うのはいないの?」

「今の所会ったことはないな。でも、もっと下の層に行けば、そういうのも出てくるかも知れない」


「でも、まだ第六層への階段は見つかっていないから、第六層があるかどうかはわからないけどね」

ジャネットが言った。


「六層に行かなくても、もしかするとこの層にも隠し部屋があって、変異種として何か特別な力を持ったオークが出てくる可能性はあるわよね?」

と、私。


「そう。だから、気を抜かないようにしないとね」 

 

 私たちはオークが残した魔石を拾いながら先へと進んでいく。

 魔石の大きさは体の大きさに合わせてか、三センチほどだ。

 

 しばらく進むと、いつものようにジョンがドローンを飛ばして、先を偵察している。

 

 レーダーみたいに遠くのオークを魔法か何かで察知できればいいのに。

 なにか、そういうのは無いのかしら。

 

 そんなことを考えていると、何かピリッとしたものを感じた。

「何?」


「どうした?」

横にいた雄一が聞いてきた。


「何か……これって、もしかしたら殺気みたいなもの?」

「え?」


「殺気って何だ?」

ジャックが聞いた。


「アケミは侍なのか」

と、ブラッド。


 するとドローンを飛ばして前方を偵察していたジョンが驚きの声を上げた。

「これは変異種か!?」


「なんだって?」

「今配信する」


 皆はジョンが仲間宛に配信したドローンからの映像を、腕のモニターで確認する。

 すると、普通のオークより二周りほど大きな体格のオーク。オークキングとでもうべき魔物が奥から歩いてくるのが映っていた。

 その前を普通のオーク二匹が、キングを護衛するかのように守りながら歩いてくる。

 

「階段のところまで下がるぞ」

ジャネットが指示した。


「「了解」」

 

 私たちは今来た道を急いで戻っていく。

 

「増援を呼ぶか?」

階段の所に着くとグレイグがジャネットに聞いた。


「ああ、連絡を入れてくれ。まず変異種が現れた事を地上に知らせ警戒態勢をとらせるとともに、高威力の武器の準備をさせろ。普通の銃はおそらく効かないし、魔法がどの程度効くかもまだわからない」


 グレイグが無線でダンジョンの出口付近で警戒してる部隊に連絡をした。

「十五分で増援をよこすそうだ」

 

 この小隊が降りてくる時に、途中の階の魔物は間引きできているので、増援部隊はほとんど邪魔をされることなくここまでやってこれるはずだ。

 だから、十五分という比較的短時間で来ることができるわけだ。

 

「十五分か。とにかく、それまではなんとか持ちこたえるぞ。皆、心して掛かれ」  

「「イェス。マム」」


 皆が配置に着く。

 

「ではアケミ。いつものように魔法を試してくれ」

「わかった」

 

 私は少し前に出て魔法を撃つ準備をする。


 すると、オーク二匹とオーク・キングが先の角を曲がってやってきた。

 あと五十メートルほどの距離だ。


「いくわ。ファイヤー・ボール!」 


 私はいつものように三メートルのファイヤー・ボールを作って飛ばした。


 火球が当たると、オークの断末魔が響く。 

「「ブオッー!」」 

 

 手前の二匹はおそらく倒せたはず。問題は……。

 

 私たちは静かに結果を見守る。

 炎が消えると、手前にいた二匹の普通のオークは予想通り倒せたようだが、オーク・キングは持っていた大きな盾で火球を防いでしまったようだ。

 

 オーク・キングは盾をおろした。


「盾なんてずるいわ」

と、思わず私。 

 

 でも今の攻撃で、オーク・キングが怒ったようだ。

「ブァオーーーー!」

咆哮をした。


「ダメなのか」「なんてやつだ」「あんな盾。対戦車ミサイルでも持ってこないとダメかも知れないぞ」

皆も少し落胆したようだ。

 

 どうしよう。あと十数分持たせないと。もっと高威力の火魔法なら行けるの?

 でも、今までファイヤー・ボールで足りていたから、もっと高威力な火魔法があったとしても実験も練習もしていない。

 それとも、他の魔法で……。

 

 次の瞬間、オーク・キングは手に持っていた槍を私めがけて投げてきた。

 しかし、私は考え事をしていたので、反応が遅れた。

 

「危ない!」 

ジャックが盾で防いでくれる。


 ガコン!


 盾でオーク・キングが投げた槍はかろうじて止めることが出来た。

 しかし盾を見ると、金属の盾が少しえぐれている。あのオーク・キングは相当な力のようだ。

 マッチョのジャックだからなんとか耐えられたが、もしブラッドだったらどうだかわからない。


 危なかった。


「ジャックありがとう」 

「おう」 

 

 でも、どうしたらいい? ……そうだ、風魔法を試してみよう。 


 しかしオーク・キングは槍を投げて武器が無くなると、盾を前にして体を守りながら走ってきた。

 

 シールド・チャージでもする気?


「下がれ!」

と、ジャネット。

 

「下がってもあれは変異種だから、階段を昇ってくる。だから、もう一回だけ」

私はオーク・キングの方を向いたままそう言うと、新たな魔法を試す。

「お返しよ。これでどう? ウインド・カッター」 


 私は密かに練習していた風魔法を操り、オークキングに襲いかかる。

 オークキングは盾でそれを回避しようとしたが、私はカッターを自在に操り、盾の脇からすり抜けてオークキングの手足を斬りつけた。

 

 すると風の刃がオークキングの筋肉か筋を切断したのだろう、オークキングは走るのをやめ、盾を落とし地面に膝を着いた。

「ブオッ!」 


「いいぞ。とどめだ」


 ジャネットがそう言って、ファイヤー・ボールを放ち、続けて私もファイヤー・ボールを一緒に放った。 

 

 二つの火球は盾を失ったオークキングに当たり、オークキングは炎に包まれ、そして倒れ込む。

 やがて姿が消えて、あとには大きな魔石が残った。

 

 そして私はまた、あのレベルアップ酔のような感覚がした。

 

 やっぱりそうだ。レベルアップしたみたい。

 あとで、ローザのところに行ってレベルを測ってもらおう。

 

「やったな!」「すごいぞ!」 

と、皆。


「ふー。なんとかなったわね」


「しかし、危険な行いは慎むように」

と、ジャネットが私に厳しい表情で。


 怒られちゃった。


「ごめん」


 次の瞬間、厳しい顔をしていたジャネットの顔がほころぶ。


「まあでも、よくやった。皆の命の恩人だ」

ジャネットはそう言って、私の肩をポンポンと軽く叩いた。


「そうだ」「よくやったぞ」

皆も笑顔で言ってきた。


「でも、風魔法も使えたのか?」

と、ジャネット。


 今は腕輪に赤い魔石を着けているから、ごまかせないわね。

 でもローザから、石碑のことはあまり言わない方がいいって言われているし……。


「あとで、色々試していたら出来ることがわかったのよ。初めに一人で試した時に、詠唱の仕方を間違えたんだと思うわ」


「そうか。では我々はそのまま変異種が出てきたであろう隠し部屋の調査に移る。グレイグは変異種の討伐を地上に報告」

 

 そのあと、無線で増援は引き上げてもらい、私たちは今のオーク・キングが出てきたと思われる隠し部屋を探しに向かった。 


 でも、さっきのはちょっと危なかったわね。

 あら? そういえば朝出る時にポチが私を引き留めたのは、これを察知したとか?

 まさかね。

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