黒くて甘い。

あまたろう

本編

「ようやくここまでたどり着いたわね……!」


 賢者が全員の回復をしたあと、自らの魔法力をアイテムで補給しながら言う。

 最後の戦いは目の前だ。もはやここには配下の魔物も存在しない。


「じゃあ、扉を開けるぞ……!」


 俺が扉を開けたとき、そこには予想だにしない光景が広がっていた。「漆黒の魔王」と呼ばれる存在の前にはすでに別のパーティが対峙し、今まさに戦いを始めようとしていたのだ。


「私たちが通る前に、なにかが戦ったような跡があったのは気になってたけど、あのパーティが進んだ痕跡だったようね」

「……しかし、あのパーティは……!」


 俺たちは万全を期し、慎重にダンジョンを踏破した上で体力、魔法力をベストの状態まで回復していたのに対し、先着のパーティは満身創痍といった状況だった。おそらく何人か欠けている。

 ……これでは奴にはとても勝てるとは思えない。


「……あのパーティに加勢する?」

 賢者がもっともな提案をしてきたが、そこで考える。

 確かに人数が多い方が勝てる可能性は高まる気がする。単純な戦力という意味では当然だが増すからだ。


 ……だが、今まで培ってきたパーティ内の連携ができなくなってしまうのは大きなリスクだ。魔王と戦うのであるから、ベストなメンバーとベストな連携でベストな戦いをする必要があるため、そこに別のパーティという実力未知数の仲間が入ることで果たしてプラスになるのかという懸念がある。


 また、回復が追いつかないほど追い詰められた場合、戦力が劣りすぐに瀕死になってしまう仲間のフォローが必要になるとヒーラーの手数がそれだけ消費されてしまう。目の前で仲間がやられてしまうとそれだけ動揺もしてしまうため、ここは慎重な判断が必要だ。

 何より、先着しているのがここにたどり着くのがやっとという様子のパーティだというのが戦力的に疑問を持つ明確な理由になっている。

 ……かといって、目の前にいながら見捨ててしまうのも……。



 ――考えていると、目の前に小型の魔王のような奴が突然現れた。



「!!」

 不意の遭遇に身構える俺たち。

 戦士は半歩前に出て臨戦態勢を敷き、賢者と魔法使いは距離を取って相手の動きに反応すべく警戒する。俺はその中間、戦士と同時に襲われない角度で間合いの一歩外をキープして構えた。


 しかし、その小型の魔王は攻撃する素振りを見せず、語り始めた。


「……現在、別のパーティが魔王様と対峙しておりますので、しばらくお待ちください」

「…………何だって?」

「……現在、別のパーティが魔王様と対峙しておりますので、しばらくお待ちください」


 小型魔王は俺の問いに対し、同じ文章をもう一度繰り返すことで応えた。


「魔王様は来られたパーティを先着順にお相手いたしますので、前のパーティが全滅するまでお待ちいただくことになります」

「……もし、前のパーティが魔王を倒してしまったらどうなるんだ」

「あなた方パーティの順番は回ってきません」


 ……えらい事務的だな。


「……あなたは何者なの?」

「私は案内係を務めさせていただいております小魔王と申します」

「魔王がもし倒されたら、お前はどうなるんだ」

「……おそらく機能を停止します」

「あなたは戦わないの?」

「私は戦闘ができる能力を持ち合わせておりません。……が、別のパーティが魔王様のところにたどり着けないように結界を張らせていただくことができます」


 小魔王と自称した存在が示すとおり、魔王の元へ続く通路にはぼんやりと壁があるように見えた。

 ……これを突破するのは少々骨が折れそうだ。


「あのパーティに加勢することはできないの?」

「ダンジョン内での行動を監視させていただいており、別のパーティと判断される場合は順番にご案内しております」


「……加勢することは難しそうね……」

 加勢するかどうかを自分で決断することから免れた状況に、少し胸をなで下ろしている自分がいる。


 ……しかし別の問題も発生した。

 俺は前のパーティが魔王に勝つことを望むのか、負けて全滅することを望むのか。


 ここまでこのパーティでたどり着いたのだから、このままこの最高の仲間たちとともに自分たちの手で魔王を倒したい思いがあるのは否定できない。

 ……だが、そのためにあのパーティが全滅するのを望むのは間違っている。


「あれこれ考えても仕方ないでしょ。なるようになったあと、私たちは私たちの全力を尽くしましょう」

 俺の動揺を察知したのか、賢者がそう諭してくれる。

 ……この賢者には今までどれだけ助けてもらっただろうか、と思いを馳せる。


「魔王を相手に雑念を持ったままではダメだ。奴らのことは気にせず集中しろ」

 戦士も俺の思いが分かっていたらしい。


「あなたはリーダーだけど、そんな責任まで背負う必要はない。魔王に立ち向かおうという時点で、あのパーティも覚悟の上のことよ」

 魔法使いもそう言ってくれる。ありがたい。やはりこのパーティは最高だ。


「……ありがとう、そうだね。順番が回ってくれば全力で戦う。その前に魔王が奴らに倒されれば俺たちは奴らに戦いを挑もう」

「「「違う」」」

 ……全員にツッコまれてしまった。


 ――――――――


 そんな中、先着のパーティに対して魔王が口を開いた。

「……性懲りもなくまた来おったか。何度来ようが同じだ。今度こそ貴様等のはらわたを食らい尽くしてやるわ!」


「……えっ、あのパーティって、前にもここまでたどり着いたことあるの?」

「今回で4回目となります」

 賢者の問いに、小魔王が淡々と答える。

「……魔王もいちいち前に来たことがあるパーティとか律儀に覚えてるのね……」


 ……しかも、あの口ぶりからすると「はらわたを食らい尽くしてやる」と言いながらとどめまでは刺していないのか……。


「もし魔王に負けて全滅してしまったら、パーティはどうなるんだ?」

「私が軽めに蘇生させて近くの教会までお送りいたします」


 ……魔王は甘々だった。


(おわり)

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