第2話

 その後もあの岩場で彼女とお話しをしたりした。だけどある日暗い表情で彼女は待っていた。どうしたのかと心配に思ったが触れていいのか分からず、俺はいつものようにただ会話をした。

 だけどそれは最後の会話だった。あれ以降彼女は岩場には来なかった。夏が終わり秋になり、冬になり、春になり、またあの夏が戻ってこようとしているのに彼女は一向に現れなかった。見慣れた岩陰に幻想を抱きながら毎日毎日帰りに寄って行った。


 そしてまたあの夏がやってきた。

 太陽がギラギラと俺を照らし、蝉が五月蠅く鳴り、陽炎が嘲笑うように揺れ、君色の空が広がるこの季節が。

 涼しむためだなんて本心を隠すように心の中で嘘をついて、岩陰に行っては彼女を探している。


「今日も居ないか……」


 初めて会った日、彼女が座っていた場所に座る。靴を脱いで素肌を空気に晒す。ゆっくりと海面に足をつけるとゆらゆらと足を動かす。パシャパシャッと水が跳ね、太陽の光を受けて輝く。

 徐々にと時間が過ぎていき4時半を告げる歌が流れ、そろそろ帰らなくてはいけない時間になってしまった。名残惜しくも思いながら立ちあがろうとした瞬間後ろから足音が聞こえた。

 ゆっくりと後ろを振り返り見上げると綺麗なブロンドヘアと夏の空色の瞳が視界に映る。


「久しぶり。」


 ずっと待ち望んでいた彼女が目の前にいる。まるで夢のようだ。


「久しぶり、ずっと会いたかった。」


 あの日、君が消えた日からずっと会いたくて、あの言葉を伝えたくて俺はここで待っていた。


「俺ずっと言いたかったことがあるんだ。」


 彼女は笑みを浮かべて俺の言葉を待ってくれている。

 一年越しのこの言葉を君に。


「好きだ、付き合ってくれ。」


 夏の短い日々の記憶を胸に俺は彼女に告白すると、満面の笑みを浮かべて「はい」と返事をしてくれた。嬉しみのあまり抱きしめると彼女も優しく俺を抱きしめてくれた。


 これから始まる君色の青い夏を俺はあと何回見れるだろうか。もし叶うなら君と死ぬまで一緒に見てみたい。


 〜END〜

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