第1話
「暑い……」
太陽がギラギラと俺を照らし、アスファルトはその暑さを反射させ、上下から暑さが攻めてくる。空にはわたあめのような大きな入道雲が浮かんでいる。あんなに大きければ太陽を隠してくれそうだが、実際は太陽を少しも隠さず空の青さだけを隠している。夏の暑さに加え自転車を漕ぐから体中から汗が吹き出し、ワイシャツが背中に張り付く。ベタっとくっついてくるワイシャツが気持ち悪い。自転車を漕ぐと風が俺を包み込むから気持ち悪さが少しでも減るかと思いきや、風は生ぬるく余計気持ち悪くなる。さっきまでいた教室が恋しい。冷房が効いていて丁度いい温度になっている教室は天国だ。そんなことを考えていると前に俺と同い年ぐらいの二人の女子高生が横に並び、自転車を漕ぎながら楽しそうにお喋りしていた。楽しそうでいいなぁと思うのと同時に自転車でゆっくり並走しないで欲しいとも思った。車の通りが少ない道とは言え、俺みたいに後ろから来た人にとっては邪魔でしか無い。グチグチと文句を言っているのは、別に青春を満喫している彼女達のことが羨ましいからでは無い。
……たぶん。
抜かそうかどうか悩んでいると、対向車線から車が数台来てしまったため追い抜かすタイミングを失ってしまった。いつもそうだ。やっていればよかったのにと後悔する。あの日もそうだった。彼女にたったの一言伝えればよかったのに言えなかった。今更後悔しても意味は無い。そうわかっていてもどうしても、そのことが頭に浮かぶ。特に最近はそのことを考えることが多い。多分原因はこの夏の青空だろう。この夏の青い空を見ていると彼女のことを思い出す。
空の青のような彼女は3年前の夏に消えた。だから夏になると思い出す。
彼女と出会った日。
そして彼女に最後に会った日を───
「あぁー落ちた!」
俺は足元に落たアイスを見て叫んだ。
今日の最高気温は28度の真夏日。暑くてアイスを食べながら帰ろうとしたが俺の選択はバカだった。何故なら棒アイスを買ったからだ。こんな暑い日に棒アイスなんてあっという間に溶けるのに気付かずに買って、結果は溶け落ちた。アスファルトに落ちたアイスには3秒ルールは通用せず、地面に染みを作った。
アイスが無くなったせいで体の熱が消えなくて辛い。どうしようか悩んでいた時、波音が聴こえた。
「確かこっちに……」
波音を聴いて見慣れすぎて忘れていた海を思い出し、ふらふらと近づいていった。影のある岩場を探して歩いていくと透き通った女性の声が聞こえた。人がいるのから離れるかと思ったが、死にそうなほどの暑さから逃げたいという気持ちの方が勝ち、声の方に近づいた。近づくと艶やかな濡れたブロンドヘアが視界に映った。
「あら、誰かしら?」
俺の足音に気が付いたのか岩陰で座っていた女性は振り返り俺を見上げる。女性は年は20歳ぐらいでブロンドヘアに空に似た色の瞳が特徴的だ。
「邪魔しましたか?」
俺は一応聞いておくことにした。すると彼女は目を細め微笑み大丈夫よと答えた。軽く頭を下げると彼女から少し離れたところに座った。さっきまでの暑さが嘘のように無くなる。海風が心地よい。
「ねぇ、貴方この辺に住んでいるの?」
黙っていた俺に女性は話しかけてきた。あ、はいと素っ気なく言うが女性は気にせず沢山質問をしてきた。その後話は膨らみお互いの趣味などを話すようになった。穏やかな彼女に俺は心を奪われた。あっという間に1時間が経った。
「そろそろ時間なんで帰りますね。」
別れを寂しく思いながらも別れの言葉を言うと、彼女は私もと一言言って海に飛び込んだ。その姿はまるでマーメイドだった。俺は本物の人魚姫を見たのではと思いながらも帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます