龍の時代

@haruto1231

第1話

「龍神様、我々龍は苦しんでおります。住処を失い、食べるものも無し。もはや生きているとも言えぬほど弱ったものもおります。どうか大陸を元に戻していただきたい。」


龍の長、デビリターは龍神様に頼んだ。


今よりこの世が幼き頃、人も居ない時代。龍は超大陸パンゲアを制し、神に最も近い存在として生きていた。それから1億年、龍神たちが形成する"神界"によって超大陸パンゲアは分割された。目的は世界平等化。大陸分割により、龍の時代は終わりを告げる事となった。


龍神様はお答えになられた。


「ならば我々神界が創造した"死の国"に行くがよい。すぐに楽になれるさ。」


死の国とは、神界によって創造された裏の世界。目的は生きることが辛くなったものにオアシスを与える事である。それまでの世では、どれだけ痛くとも苦しかろうとも、生きなければいけなかった。自ら楽になる方法は無かった。それが今では、神々のおかげで、自らの意志で死を迎えることができるようになったのだ。


~ローラシア大陸(現アフリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸)〜


龍たちはローラシア大陸の一角で、他の動物との接触も禁じられて、生死を彷徨っていた。マリ大陸には"マモート"(体長50m程の獣)や"ワール"(体長100mを超す水生生物)のような不便なほど大きな生き物ばかりが集められていた。おかげで龍をはじめとするローラシア大陸の生物は、今日の餌にも困るような生活を強いられていた。

「ドラフよ、お前は兄のようにはなるのではないぞ。」

父が神界の幹部、兄が神界最高位の龍神という神一族に生まれた龍のドラフは、デビリターに言われた。龍のオスは大人になると勇ましい爪が生えるのだが、ドラフには木の芽のような頼りない爪しかない。デビリターの太くて勇ましい爪は、すっかり日が落ちたその大陸の夕焼けに照らされた。 しかし照り返しは弱く、シワだらけの皮と細い体は、龍の衰退を表していた。

「ドラフ、お前はもっと食え。龍の未来は、お前にかかっているのだぞ。」

大岩に積まれた少量の餌を尾で指し、デビリターは言った。


ドラフは生まれながら頭脳に恵まれず、神には成れなかった。周囲にバカにされても、蔑まれても、龍として平和な暮らしができることを喜んでいた。しかし、幼い頃によく遊んだ兄が今では神として、手も届かない存在になってしまったことは、少し寂しい気もしていた。兄が龍の縄張りから出ていく時、冷酷な目で睨まれたことを、ドラフは忘れてはいない。

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