スクールカースト底辺ぼっちの俺は虐めから救ったヤンデレ少女に重すぎる愛を向けられる。
門崎タッタ
プロローグ
それは、本当に偶然だった。
いつも通りの昼休み。
小学校に持ち込んだゲーム機を持って、誰もいない空き教室に向かっていると。
……その光景を目撃してしまった。
「貞子ちゃーん、逃げないでよ。その長い髪を切ってあげよーとしてるのにさ」
「や、やめてっ。やめて、ください……」
「じゃあさ、今すぐ服脱いでよ。写真撮って、ロリコンのおじさんに売るからさー」
「あははっ。いいね、
派手な外見の二人の女子が長い黒髪の少女を押さえ付けており、リーダーっぽい女子がハサミを片手ににじり寄る。
彼女らは全員、クラスメイト。
リーダーっぽい女子と取り巻きはクラスの中でも目立つ存在で、長い黒髪の少女は常にひとりぼっちだった。
……リーダーっぽい女子、加羽アザカは性格が良くない。
もちろん、取り巻きである斉藤と中郷も。
授業中はぺちゃくちゃ煩いし、男女問わず、気に入らない奴がいたら無視するし。
だが、まさか……陰でいじめをしているとは思わなかった。
「お願いします……もうやめてくださいっ」
アザカに虐められている少女、八坂セリナは今にも泣きそうな表情をしている。
けれども、俺は動かない。
息を潜めて、彼女らの会話を盗み聞きするだけに留まる。
虐めを止めるのはリスクが高い。
アザカ達は陰湿で執念深く、ここで体を張って虐めを止めたら、何らかの報復を受ける事は目に見えている。
クラスメイト達に命令して、俺をハブろうとしたり、下手すると俺までアザカ達に虐められるかもしれなくて。
流石に、それは勘弁願いたい。
現在進行形で虐められているセリナさんには申し訳ないが、自分を犠牲にしてまで助けたいとは思えないのだ。
俺と彼女はまともに話したことすらなく、友達でも何でもなく。
そんな関係性の人を助けて、自分の学校生活を捨てられるほど、俺は良い奴じゃない。
だから、俺はこれから先生を呼んで、この場所に連れてくる。
そうすれば、誰がチクったのかアザカ達には分からないし、いじめ問題も大人達の手によって、解消されるに違いない。
と、考えた俺が立ち上がろうとすると。
「お願いします。助けてください、誰か……」
普段から大人しいセリナさんが出したとは思えないくらい、悲痛な声。
それを耳にした俺の体は、考えるよりも先に動いていた。
空き教室の扉を開けて、叫ぶ。
「それ以上は止めろ、お前ら!」
突然、現れた来訪者に対して、アザカも取り巻きもセリナさんでさえ、目を丸くする。
……俺は馬鹿だ。
大馬鹿者としか言えない。
一時の感情の昂りに流され、これからの学校生活をドブに捨てようとしている。
だけど、口にした言葉は、やってしまった行動は引っ込めることが出来ない。
覚悟を決める他、ないのだ。
「逃げよう、セリナさん!」
その隙をついて、俺は取り巻きの一人を突き飛ばして、セリナさんの手を取り。
俺達は走って走って走って。
とにかく逃げまくり、その勢いで二人揃って、学校をサボった。
どこかも分からない公園で、セリナさんからお礼を言われて、俺は照れる。
その後にちょっとだけ会話して、お互いの家に帰宅する。
……仮に、この世界が物語の世界であるのなら、ここから恋愛が始まったりするのかもしれないが。
当然、そんな訳はなく。
「あっ、来た! 彼氏と彼女! ゲームオタクと貞子のカップルが来たぞ!」
「ヒューヒュー! キスしろ、キス!」
翌日、学校に登校すると、黒板には俺とセリナさんがカップルであるという荒唐無稽な文言が書かれていて、クラスメイトからは絶えず茶化される。
そうなると当然、俺とセリナさんは恥ずかしがり、その様子を虐めっ子であるアザカと取り巻きはニヤニヤしながら見ていて。
やがて、俺はクラスメイトから無視されるようになった。
イジメの事実を先生に報告してみたが、取り巻きの一人、中郷が不登校になっただけで、主犯格のアザカはノーダメージ。
恐らく、彼女は斎藤と口裏を合わせて、中郷に全責任を押し付け、上手い事切り抜けたのだろう。
そして、以前と変わらず、クラスの頂点に君臨し、クラスメイト達を操って、チクった仕返しとして俺を無視するよう仕向けたのだ。
因みに、そんな状態になっても、仲良くしてくれる幼馴染がいたけれど。
……自分から突き放すことにした。
大切な友達を巻き込みたくなかったから。
その上、1ヶ月後にセリナさんは転校することになった。
本人曰く、家庭の事情らしい。
別れ際に、彼女は俺に対して、何度も何度も謝っていた。
「巻き込んでしまって、ごめんなさい。最後まで何も出来なくて、ごめんなさい……貴方に助けてもらった恩はいつか返します。何があろうと、絶対に……!」
……と。
セリナさんは何も悪い事をしておらず、諸悪の根源はアザカと取り巻きだと言うのに。
そうして、俺は名実共にぼっちと化した。
小学校を卒業し、中学生になっても俺は依然として、一人ぼっちのままで。
友達もいなければ、部活にも入れない。
危惧していた通り、俺の人生はめちゃくちゃになってしまったのだった。
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