第11話:和解へ
姉と蒼依の双方から3年前の事件について聞き、万真はようやく話が見えてきた。でも、引っかかるところがあるようだ。
「あの、蒼依さん」
「何?」
「湊斗先輩とどんなお付き合いがしたかったんですか? 蒼依さんは勢いに押し潰されるだけじゃなかったんですか? 話を聞いている限りだと俺には、そう思えたんです」
かつての姉に対しての失態の経験を踏まえ、そう問いかける万真。
「そう言われてみれば、その……そう、だったかも、しれない。あの時は何も考えてなかった。考えが浅はかだった……」
「嫌なこと思い出させてしまったのは、申し訳ないです。ですが――」
万葉が何か言おうとするが、蒼依が止める。
万真は一呼吸し、蒼依の目を見る。そして。
「蒼依さん。湊斗先輩は取り返しのつかないことをしてしまったと思います。話を聞いて、けっこうショックでした。ただ、退部して取り残された姉ちゃんの身にもなってください。同じ女性なんですから、いくらでも力になってくれたはずです。今からでも遅くないじゃないですか。逃げないで、姉ちゃんと向き合ってください。これは副部長としてではなく――姉ちゃんの弟としてのお願いですから……」
蒼依は何も言い返せない。その目には涙が。
「そして、姉ちゃん」
「どうしたのよ?」
視線は姉に向けられる。
「……話してくれて、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。万真のおかげで、すっきりしたよ」
またひとつ、姉の役に立てた万真は誇らしげだ。
「……蒼依。卒業まであと半年しかないけど、仲良くしましょ? うちの弟の言う通り、今からでも遅くないよ?」
万葉が蒼依に手を差し伸べる。
「うん。分かった。本当はずっと、万葉に謝りたかった。だけど、先輩がいるうちはどうも、行きづらくて――」
「こんなことになったのは、先輩が原因だから。蒼依は悪くない。さっきは酷いこと言ってごめんね」
「こちらこそ、ごめんなさい」
互いに握手し、和解の瞬間を見届けた万真はほっとしていた。
☆☆☆
大学祭1日目が終わった。受付の当番を翔太に投げてしまったことにヒヤヒヤしていた万真だったが、事情を知った翔太は納得してくれた。
「姉さんも、色々抱えていたんですね。知りませんでした」
姉は蒼依とお茶するため、キサキに行っている。
「俺もだよ。一緒に住んでるのに、何も知らなかった。翔太、今日忙しいところ受付投げてしまって、本当にすまんな」
「そうですよー、本当に。兄さんからのお願いは、断れませんからね。でも、兄さんは凄いです。姉さんの元同期の方とは言えど、あんなに踏み込めるとは」
「俺が姉ちゃんにあんなことしといて、でかい口叩ける立場じゃないのは分かってる。だけど、湊斗先輩がそんな人とは思わなくて、内心許せなかったんだ。姉ちゃんも葛藤は少なからずあったと思う。よく話してくれたと思ってるよ」
万真は翔太を見送るため、一緒に大学の最寄りの駅まで歩く。
「……今も、姉さんのこと、想っているんですか?」
翔太が宜しくない質問を万真に投げかけてくる。
「何でそんなこと聞くんだ。そりゃあ、ねぇ……。だけどよ?」
「だけど?」
「姉弟であることを自覚してって。姉ちゃんに謝りに行った時にそう言われた。だから、言われたことをただただ守ってるだけ。かつて仲良かった元同期の方だとしても――姉ちゃんのことを悪く言うのは、許せなくて。今日みたいなことになったんだ」
「そうだったんですね。簡単に言えば――姉さんを守ったってことですよね」
否定はできない。
「そうだ。守ってやりたかった。唯一無二の、姉ちゃんだから」
唯一無二。誰かから言われたことのあるその言葉は、無意識に出る。
☆☆☆
今年も大学祭が終わり、11月に万葉は内定を獲得した。喜びを万真だけでなく蒼依とも分かち合っていた。それを聞き、万真は何も心配いらないなと思っていた。
万葉は春休み、蒼依から卒業旅行へ一緒に行かないかと誘われている。そのため、12月から資金稼ぎで短期のアルバイトをすることになった。部活の引退は例年は年末だが、早めに11月いっぱいで引退することになった。
「部長を万真、副部長を翔太に託します。今までお世話になりました! 那奈と仁奈も、これからも先輩たちと仲良くやっていってね」
部長最後の日の姉は晴れ晴れとしていた。まだまだ同じ屋根の下で暮らす姉へエールを送るとともに、新部長として責任を感じる万真であった――
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