シスコン男に恋はできる?

はづき

プロローグ

 ここは、とある住宅街の中にある青城せいじょう大学。この大学の経済学部に通う姉弟がおり、写真部に所属している。


 写真部の副部長に就任した2年・野木のぎ万真かずまは、教養学部にいる先輩方2人の卒業式の2か月前、部長の3年・万葉かずはから告げられたこと。


れん先輩のことが、ずっと好きだった。卒業式の日、伝えられたら――」


 だが、前部長の富安とみやす蓮には、同じゼミナール内で好きな人がいると、蓮の幼馴染で前副部長の長浜ながはま湊斗みなとから以前聞いている万葉。


――最近その彼女と付き合うことになったと、湊斗から情報提供。


それを分かった上で温かく送り出そうとする姉の姿を見て、できる限りのサポートをしてきた万真。実の姉なのに、恋する乙女の顔をする姿が頭から離れられなくなり、先輩ではなくいつしか自分にも向けて欲しいと……思うようになってしまった。これが、姉への芽生えた恋心なのだろう。


 姉の片想いが実らないことなんて、万真にも分かっていたはずなのに、生まれてから一緒だった姉がだんだん遠くに行ってしまう気がして、心が痛くなってゆく。


 そして迎えた卒業式当日。写真部部室内にて、万葉が部長として挨拶を行う。


「蓮先輩、湊斗先輩。ご卒業おめでとうございます。初めての後輩だった私に1から色んなことを教えてくれました。温かく、そしてフレンドリーな部活に築き上げてくれたこと。私はその一員としていられたこと、誇りに思っています」


万葉の挨拶は続くが、ではなく、これまで長く温めていた蓮への想いに変わっていく。


「蓮先輩。1年の頃からずっと……好きでした。でも、先輩にはお相手の方がいることは分かってます。湊斗先輩から聞きました。だけど――」


声を震わせ、大粒の涙を流す万葉の近くで、万真は静かに見守るしかなかった。


「だけど、もう会えなくなる前に……言わないと、胸が張り裂けそうで辛いんです。彼女さんとの幸せを願うのが、1人の後輩として……私が、できることなんです……」


万葉の必死の告白を目の前で聞いた蓮は。


「ありがとう、万葉。その気持ち、ありがたく受け取っておくよ。俺も、君の幸せを願ってるよ」


そっと抱きしめていた。


 見ていられなかった。弟の万真も、胸が張り裂けそうで辛かった。悔し涙をこらえながら。

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