第92話 修練の始まり
翌日、目を覚ますと俺はアンナに抱き着いていた。ふとアンナの方を見てみると、すやすやと眠っているようだった。俺はそんな彼女にそっと別れを告げ、ルリアーナたちのいる自宅へと帰った。家に帰ると、ルリアーナと師匠はもうすでに起きており、俺はアンナの意識が戻ったことを嬉々として伝えた。しかし、
「知ってるよー。割と元気そうでよかったよね」
「そんなのとっくの前に知ってるわよ。いいから早く着替えなさいな。修練場所に移動するわよ」
……なんでもう知っているのだろうか。もしかして俺が知らなかっただけ?そんなことを考えながら家の中に入り着替えを始めた。
着替えた後、俺たちは冒険者ギルドに来ていた。何か依頼を受けるのだろうか、そんなことを考えていると師匠と受付の人が話していた。やがて師匠は話終え、こちらを手招きしながら冒険者ギルドの奥の方へと進んで言った。突然のことで、俺たちは顔を見合わせたが、追いかけるしかないと思い急いで師匠の後を追いかける。
冒険者ギルドの送って最初は驚いたけど、今となってはもう見慣れちゃったよね。とはいえ、普通の人はそうそう見ないものだから俺たちが異常なだけなんだけどさ。そんなことを考えていると、ふと師匠が一つの扉の前で止まった。
「結構特別なんだからね」
師匠はそう言うと、扉を開けた。開けられた先には、下へと続く階段があった。以前言った遺跡を彷彿とさせるような……そんな階段。冒険者ギルドの中にこんなところがあったのか。そんなことを考えながら階段を下りていく。
少しの明かりしかなく、薄暗い中を気を付けながら進んでいくと、階段が終わり広い空間へと出た。その空間には明かりはなく、先が見えない場所だった。それこそ隣にいる人しかわからない程。
光源を出そうかと考えていると、バチンッ!と大きな音が鳴った。それと同時にこの空間に光がともされ、全体像が露わとなっていく。
「ここは……」
突然の光景に目を鳴らしながらあたりを観察する。
真四角の空間の天井に照明が複数個。それ以外、何一つおかれていない、寂しい空間だった。
「もともと冒険者ギルドがあった場所って遺跡があったのよ」
おもむろに支障が話し始める。
「ギルド建設にあたってその大部分は壊されたのだけれど、一か所だけ残されていた。その場所がここってわけね」
そんな歴史ってあったの?って横にいる二人に目で問いかけると、知らないとばかりに首を横に振った。
「知らないのも無理ないわね。こてって国家機密レベルのことだし」
さらっととんでもないこと言ったなぁ。でもまあ、あんまり何も思わなくなったな。慣れって怖い。
「ここってすごいのよ。例えば……」
そう言って師匠は見上げるほど大きな火球を作り、反対側の壁へと投げつける。俺たちは咄嗟に『マナ障壁』を展開し、構える。次の瞬間火球と壁がふれあい、大爆発が起こった。
『マナ障壁』を張っていなければ、すぐに死んでしまう。そんな魔法だった。
「ちょっと師匠!私達を殺す気です……あれ?」
即座に師匠へ講義の声を上げたが、それが最後まで続けられることはなかった。なぜなら先ほど火球のぶつかった壁が何事もなかったように無傷だったからだ。
「こんな風に、この部屋に対する攻撃はすべて弾かれる。しかも完全防音よ」
なるほど、修行するにはうってつけの場所なのか。
「じゃあ、今日から修行するんだね!」
「そう。だけど、あなた達には先に魔法とは何かをしっかりと把握してもらうわ」
……?
「魔法に対しての理解が浅くなっているのじゃないかなって。試しにルリアーナちゃん、私に魔法を放ってみて」
「あ、はい」
ルリアーナはどういうことかわからないといった表所をしながらも、魔法を構築し始める。
拳大ほどの岩を作り上げたルリアーナは、そのまま師匠に向かって飛ばした。師匠は、『マナ障壁』で防ぐわけもなく、ただ飛んでくる岩に触れた。するとどうだろう、師匠に触れられた岩は力を失い、粉々に砕けてしまった。
「っ!!!」
「確かに、魔法の威力は強いかもしれない。だけど、それと同時にすごくもろい。だから今みたいに無効化できちゃうのよ。時にカルラ、魔法って何?」
「……マナを使ってイメージを具現化させること」
「んーそれだけだと50点かな。」
師匠は胸の高さまで手を上げ、炎の球を作り出す。そして、それを水に、氷に、岩に変化させながら話を続ける。
「魔法はイメージが大切。ただ、イメージが完璧であっても、マナのコントロールが伴ってなければ魔法は脆弱になる」
……マナのコントロールが甘い、師匠はそう言いたいのかな。
「けど、マナのコントロールの練習っていつもしてるよね」
ルリアーナの言う通り、俺たちは普段からマナコントロールの練習はしているし、日々室は上がっているはずだ、
「魔法の本質を理解しているかしていないかによって、マナコントロールに天と地ほどの差が生まれるといえば伝わるかな」
……本質か。
「その魔法の本質というのは、どうやって理解するのですか?」
ここまでずっと黙っていたアンナが口を開いた。本来、アンナは剣がメインのため、別の人と指導を受けるようになっていたのだが
『付与魔法を扱うから、私もオリヴィアさんの指導を受けたい』
といったから、一緒に話を聞いている。それでもずっと師匠や俺たちと魔法の練習をするわけではなく、剣の練習の合間にやるだけらしいけど。
「それがね、人によってさまざまなのよ。最初から理解している人もいれば、一生理解できない人もいる。私はなんとなくいつの間にかできるようになってたからわからないけどねぇ」
師匠はてへっと言って、ウインクしてきた。
うん、久々に師匠のことを殴りたくなったよ。それにしても、やり方がわからない……か。
「一応何個か教えてみるけど、あんまり期待しないでね」
こうして、師匠との魔法の練習が始まった。そして俺は、師匠の提案したどの方法を用いても魔法の本質を理解することはできなかった。
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