第25話 ドゥルガの森

「というわけで、今日からよろしくね」


 翌日、冒険者ギルドで師匠と合流した。


「これからどうするの、師匠」


「ん~そうね、とりあえずご飯を食べに行きましょうか。いいお店紹介するわよ」


 確かに。ご飯にするにはちょうどいい時間かもしれない。でも…


「ドゥルガの森に行かなくていいんですか?」


 よくぞ言ってくれた、アンナ。俺たちは早めにいかないといけないのではないか?


「行くけど、お腹が空いてたら活力が湧かないでしょ?」


 そういえば、師匠はこんな人だった。


 俺たちは師匠に連れられて、『アンブロシア』という店に来た。


「ここの角煮がおいしいんだよねぇ」


 俺たちは店に入り座ると、早速注文をした。


 師匠は『ブルボアの角煮』を、俺は『ホロホロ鳥のシチュー』を、アンナとルリアーナはそれぞれ『ファイヤーラビットのロースト』と『アクアラクーンのステーキ』を頼んだ。


 注文して十数分待つと、次々と料理が運ばれてきた。


「「「「いただきます」」」」


 俺は運ばれてきたシチューを食べてみた。すると、今まで食べたことのないようなおいしさが感じられた。


「何これ、おいしすぎる」


「ふふ、そうでしょう。このお店は、私が冒険者学校時代からお世話になってるお店なの。どの料理もおいしくてお手軽な値段なのよ」


 ふと値段表を見てみると、どれも銅貨十数枚に設定されており、学生にも優しい金額となっていた。


「いつもだとすごい混むのだけれど、今日は少し早めに来たから」


 その言葉の通り、俺たちが食べ終わり店を出たころには行列ができていた。あのおいしさと値段なら納得だ。


「すごい美味しかった!また来たいよね!」


「そうね。今回の依頼が終わったらまたみんなで来たいわね」


 ルリアーナとアンナにも好評だったようだ。


 師匠のおすすめの店で腹を満たした後、俺たちは市場へと向かっていた。ドゥルガの森に行かないのかって?師匠曰く、


「今回の依頼は数日にも及ぶ可能性があるわ。だから念入りに準備しないとね」


 とのこと。そのため、俺たちは市場で数日分の食料と水、そして寝具や雑多なものを買った。とはいえある程度のものは魔法で代用できたりするので、念のために買ったという感じだ。


 そこまでしてようやくドゥルガの森に向かう準備が整った。


「ドゥルガの森までどうやって行くんですか?」


 ドゥルガの森は、ヘルゲンの西にある。今いるアンベルクからは馬車で行くとなると約半日かかってしまう。


「『テレポート』を使うわよ」


 そっか、一度行ったことがあれば大体の場所はテレポートで行けるのか。最近は新しいところに行く機会が多すぎて忘れてた。


「それじゃあ、私に抱き付いてね」


 その言葉通りに、ルリアーナとアンナは師匠に抱き着いた。


「抱き着く必要性はないじゃん。2人で遊ぶのはやめてよね」


 俺の言葉を聞いた2人は師匠から離れた。


「いいじゃない、面白いんだし。若者の成分を補充したいのよ」


 またおっさん臭いことを……。


「ふざけてないで早くいくよ」


「はいはい。『テレポート』」


 次の瞬間、首都の外壁付近にいた俺たちはドゥルガの森に着いていた。アンナとルリアーナは驚いたといった感じで辺りを見渡した。『テレポート』を使える魔法使いは少ないし、この反応も当然か。


「すごい。魔法って便利なのね」


「てか、カルラも使えるんでしょ?なんで今まで使わなかったの?」


 ルリアーナは俺に聞いてきた。


「使ってもよかったけど、何が起こるかわからないよ?」


 実は俺の『テレポート』は自分のみ適応される。以前師匠と共に『テレポート』で転移しようとしたとき、マナ暴走が起きかけた。『テレポート』の魔法を失敗してしまうと、消滅してしまうとか、次元の狭間に閉じ込められるとか、色々な仮説があるがどれも危険なものばかりだ。危うく師匠を消しかけたよ。


「だから、そんな危険なことをルリアーナとアンナにできるわけないでしょ?」


「私にはしてもいいみたいな言い方ね」


「まあ、師匠だし。何とかなるでしょ」


 実際あの時も何とかなったわけだし。師匠が無言で俺を羽交い絞めにしようとしてくるので、無言で抵抗する。


「でもさ、そう言えばアンナを助けた時に使ってたよね?」


 そう言えば、確かにそんなこともあったな。


「あれって例外なんだよ」


 というのも、感情によって魔法の威力は変わってくる。起こっていると威力が上がったり、悲しんでいると威力が下がったり。しかも、感情による影響を受けている場合は、本来想定しているものとは違った威力になるからコントロールも悪くなってしまう。


「もしかしたらあの時に次元の狭間に閉じ込められてたかもしれないね」


 俺の言葉に、ルリアーナとアンナは唖然としていた。あ、これまっずい。


「と、とりあえず先を急ごう!」


 俺はそれだけ言い、森の方に進んでいった。後ろからため息が聞こえてきたのはきっと気のせいだろう。うん、そう信じたい。


 ――――――――

 

「ふぅ」


 アンナが剣に付いた血を振り払いながら、息を吐いた。俺たちが森に入って早一時間、俺たちは魔物の波に襲われていた。


「これで終わりかな?」


 俺たちの周りには死んだ魔物の山が作られていた。この森に入ってから確信した。確実に何か異変が起こっている。じゃないとこの魔物の量はおかしい。


「みんな、お疲れさま。少し休憩を取りましょう」


 師匠のその言葉に賛成し、俺たちは休憩をとることにした。


「それにしても、なんでこんなにも魔物がいるのよ」


「それを確かめるためにここへ来たんでしょ」


「それはそうだけどさぁ……」


 ルリアーナの言いたいことは分かる。異変が起こってるのは分かる。だとしても量がおかしい。倒しても次から次へと現れてきていた。


「ともかく、原因を探るために森の奥に行かないとね」


 俺たちはほどほどに休憩を終え、再び森の奥へと進みだした。それにしても、なんでこんな異変が起こってるんだろう。やっぱり主の暴走かな?


 人間の未開拓地には、そのエリアを支配している魔物の主がいる。こうやって、魔物の異変が起こるときは、大体主が暴走している場合が多い。にしては、他のケースと規模が違うような。


 俺の思考は、師匠の必死な声で中断された。


「何かが来るわ。身構えて!」

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