第十五話 闇の序奏
島の最北端、岸壁にそびえたつ高層建築物――通称、オーナーズビル。
七霊夢アイランドを一望出来るその場所の最上階に、上品な紺のスーツを纏う男がいた。
広々とした己の執務室の巨大な窓ガラス越しからアイランドを見下ろすことが、この上ない満足感と充足感。数百キロ離れた、聞こえるはずのない人々の熱気や活気を、彼はオーケストラのように心に染み渡らせる。たっぷりと味わったところで煉原は踵を返し、チェアに腰かけた。
デスクに置かれたPCの回線を開くと、男の画像が表示――ザルツだった。
『V.I.Pのご到着だ』
「そうか。思っていたよりも早かったな」
『既に入っていた予約者の個人情報を上書きし、こちらに潜り込んだ模様。そのような細工を弄するとは誠に驚いた』
「精保にも我々と同じ卓越した技術者がいるのだろう。分かっていたとはいえ、さすがだ」
煉原は自然と笑みをこぼす。
「最高ランクのお客様には、最高級のおもてなしを。……手段は問わん。今度こそ確実に始末しろ」
『承知。しかし、相手はインジェクター三班の中でも屈指の実力者揃いのB班。我等とてこの楽園を守れる保証はない』
「構わん。ここが後々独自の国家として機能していくためには精保の存在は邪魔になる。被害請求は日本政府にでもしておけばいい」
『一般客はどうする? 精保がこちらにいる以上、この楽園に不信感を抱かせることになる』
「……お前はここがどうして楽園と呼ぶのか忘れたのか?」
通話の向こう側で息を呑む音が聞こえた。
『まさか、あれを使用すると? いいのか?』
「こういうときのための切り札だ。なぁに、記憶は誰にも残らない。貴様もそれならば負けまい?」
『呪われし英雄は我の標的。誰にも譲る気は無し』
「それでいい。装置の起動はお前に任せる。その先は好きにやってくれ。くれぐれも女神だけは忘れるなよ」
『無論だ』
通信終了。煉原は深くチェアにもたれかかって、天井に手を伸ばす。
「他の国と精霊使いが共存するなど愚の骨頂。やはり貴様らとは相いれなかったな、マスター共」
喉をくつくつ鳴らして、興奮を無理矢理抑えるようにして静かな笑い声を上げる。
「さぁ、教えてあげよう。どうしてここが楽園なのか。“コード・ミラージュ”開始だ」
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