春夏は憂い、狭間は笑った②

拾い上げた羽根は、今まさに抜け落ちたばかりのような熱を持っていた。


それは最早温かいどころか、少し熱い程に。


この熱が無い夏は……もしかしたら夏らしく無い気温になってしまうのかもしれない。それは環境にとっても良くないことだ。


そこまで考えて、はたと思う。


確かに環境には良くないのかもしれない。でもこれを、に変えてみたらどうだろう?


「紳人?どうしたのじゃ、惚けておるぞ」

「コン。何となく、何となくだけど」

「ふむ…もしや、彼奴について何か分かったのか!」

「多分ね」


内心ピンクいお手伝いさんのことが頭に浮かぶが、完全に関係ないので思考から追い払って流麗に佇む麒麟様に一つ訊ねることにした。


「そういえば麒麟様、お聞きしたいことが」

「私に伴侶がいるかとか?」

「いやそれは」

「紳人」

「どう考えてもそうじゃないってわかるよね、コン!?」

「紳人?」

「なしてウカミまで!?絶対分かってるでしょ!」


よく考えて欲しい。神様に人間側からプロポーズする奴なんて早々……俺かぁ。


いやしかしそれでも未来の伴侶持ちの俺が麒麟様に伴侶はいますか?なんて訊ねるのは、不敬だとか以前に正気の沙汰ではないだろう。


身も心も今現在こうして締め付けられている俺が、堂々とデリカシーに欠ける発言をしたりするものか!


「むふふ、冗談じゃ♪」

「そっか!じゃあ俺の首を撫でるコンの尻尾は一体?」

「嫌かの「大好きです!!」食い気味じゃな!?しかし嬉しいぞ!」


もふもふが嫌なことは絶対にあり得ない。


はしゃぐように喜色満面で俺とコンは抱きしめ合い、コンは俺にすりすりと頬擦りしてくる。


その柔らかな感触や包み込む温もりは、愛おしくてたまらない。


「可愛らしいわ〜」

「麒麟様もうちに来ます?」

「あら、良いの?」

「「ウカミ!?」」


つい金色の瞳とまじまじと見つめ合い2人の世界に入りかけてしまう。


でも、流石にウカミのその誘いは困惑を禁じ得ずコンと揃って正気に戻らざるを得なかった。


虹色を束ねたような鮮やかな瞳を細めあらあらと頰に手を当てる麒麟様は、乗り気なのか冗談なのか反応からは読み取れない。


これでも相手の意図を読み取ることは得意のつもりだったけど、神様相手には効かないことも多いようだ。


「ま、そのことは朱雀ちゃんを見つけ出してからね!聞きたいことはそれではないだろうから」

「はい…そうです…」

「本当ですか?」

「本当ですぅ!!」


確実に麒麟様とウカミは相性が良い…俺とコンを弄るという点に於いて。


麒麟様まで来たら俺たちの日常の安寧は虹の彼方に渡っていってしまう気がする。


というかコンもウカミも凄い神様なのに麒麟様まで来たら、俺の肩身が狭いどころの騒ぎじゃない。


あと絶対学校に来る。保健室の先生あたりで。


ええい、まだうちに来ると決まったわけじゃない!とりあえずそれは置いておこう、今は春を見送り夏を迎えるためにも朱雀様を追わなければ。


「麒麟様。確認なのですが、青龍様と朱雀様って仲良いのでしょうか?」

「えぇ、とっても仲が良いはずよ」

「ありがとうございます。これで、一つの仮説が出来ました」

「仮説とな」

「うん。朱雀様はもしかしたら……青龍様のところに居るかもしれない」


俺が口にした可能性に、コンもウカミもそして麒麟様でさえもキョトンと目を丸くさせるのだった。

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