南の方角、汝は何処?③

「さて、麒麟様。探すにあたって何処か当てはありますか?流石に日本全国しらみ潰しは時間がいくらあっても難しいかと……」

「まずは朱雀ちゃんの気配を感じてもらうために、朱雀宮の方に行きましょうか」


麒麟様の言葉にこくりと頷く。


コンやウカミだけじゃなく、今回は俺も頑張りどころだ。しっかりと記憶したいから此方としてもありがたい。


気を引き締めて俺もひとまず着替えるかなと腰を浮かせると、それよりも先に麒麟様が立ち上がる。


「それでは、また明日の朝迎えに来るわね」

「あれ?今からじゃないんですか?」

「え?だって、神守くんもお疲れだろうし」

「いえいえ大丈夫です。これくらい慣れっこですから!」

「君が一体どんな生活を送ってるのか、私は少し心配になるなぁ」


彼女は虹を一つに束ねたような不思議で綺麗な瞳をぱちくりと瞬かせると、俺の言葉を聞いて微苦笑してしまった。


「どうって、気が付いたら神様との縁が増えているような生活です」

「コンちゃんやウカミ様のような神様がいつも一緒だから、君自身の体質も合わさってより強く縁を引き寄せてしまうのね」

「まさかそんな理由があったとは……!」


此処に来て明確に知る神様と巡り合う理由の根幹。


思わずコンと目を合わせ、なるほどと視線で感嘆を交わすと意識を切り替えるように瞬きしてから麒麟様に向き直った。


「なら、尚更だ。すぐに着替えます!」


俺は素早く寝室へ入ると素早く制服から動きやすい橙のTシャツと迷彩柄のズボンに着替える。


「お待たせしました!」


荷物を纏めた肩掛けカバンを下げ、リビングへと戻れば三神とも立ち上がって準備万端の様子だった。


麒麟様は体の前で綺麗に手を組み牛の尾を時折揺らし、ウカミも流麗な佇まいで白銀の耳をピコピコ動かし。


そしてコンは。


「行くぞ紳人!朱雀と其奴の持つ夏を見つけに!お主とは夏に楽しみたいこともいっぱいある、草の根分けてでも探し出すのじゃ!」


金色の瞳で俺を真っ直ぐに見つめ、ブンブンと尻尾も耳も元気に揺れ動かし…両手を腰に当てて胸を張っていた。


「あぁ!でも、移動手段ってどうするんです?『神隔世』経由で行くとか?」

「それも良いけど、もっと早い方法があるのよ」

「と、言いますと」

「勿論飛んで♪」

「誰が!?」

「私が」

「俺たちを乗せて?」

「そういうことね」


麒麟様が、俺とコンとウカミの三人を乗せて空をお飛びになる。


ふむふむなるほど!


「コンたちはともかく俺は不遜すぎますから!」

「乗らなかったら雷落とそうかな?」

「乗らない方が不敬!?そんなまさか!」

「まぁ良いではないか紳人。乗せてくれると言うのであれば、お言葉に甘えるのもまた礼儀と言えるじゃろう」

「ううん……そうかな、そうかも?」

「では、行きますよ♪」


麒麟様もコンも良いと言ってるし、ウカミもさぁさぁと肩に手を添えて先を促してくる。


確かに、何事も度が過ぎては良くない。此処は素直に従うのが吉かな。


何とか自分の心を頷かせてから、ウカミ、麒麟様、コン、俺の順で家から通路へと出た。


時間は17時前後。もう30分もすれば、空は夕暮れになるはず。


しかし、どうやって麒麟様に乗るんだろう?よもや摩訶不思議大冒険なアレよろしく飛ぶとは思えないし。


「それじゃ、えいっ!」

「ちょっ!?」


カンっとマンションの手すりに軽やかに飛び乗ったかと思えば、何を思ったか麒麟様は宙へ舞ってしまった!


慌てて駆け出し届けと手を伸ばした、その瞬間。


『ォォォォ……!』


視界が眩い輝きで真白色に染め上げられてしまい、直視出来ず反射的に目を瞑る。


視界が回復するのを待ってから再び目を開けた俺が最初に見たものは。


『ふふっ、人型も良いけど此方もやはり動きやすいわ♪』


竜の顔に馬の蹄と牛の尻尾を持ち、その全身は鱗に覆われ背毛は5色の大きな麒麟様の姿だった。


その姿は絵画などで描かれた姿そのもので、直に見ると威厳が半端では無い。


呆気に取られて呆けていると……クイッとコンが左から俺の袖を引っ張ってくれた。


「紳人。大丈夫かの?」

「あ、あぁ……ありがとうコン」

「では私から行くので、紳人とコンも続いてくださいね」

「分かったよ、ウカミ」

「うむ!」


ゆらりと動いてマンションに体をくっつけた麒麟様。彼女に引き寄せられるようにして、ウカミは横向きに乗る。


それを真似して俺もなんとか跨り、最後にコンの手を取って俺の腕の中へ納める。


嬉しそうに頬擦りしながら声を漏らしたコンと微笑み合ってから、一緒に前のウカミと麒麟様を見た。


『では、行きますよ〜!』

「「「お〜!」」」


こうして、俺たち神守家は麒麟様と共に朱雀様探しの旅に出るのだった。


俺は心に、本当に見つけられるだろうかというそんな一抹の不安を胸に抱きながら。

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