照らし出す、神の使い④

「クネツ、今日はお仕事休みなんです!」

「本当に?ズル休みしてたりとか」

「そんなことしてないです!何なら、サービス出勤してるです!」

「サービス出勤…とな?」


突然のクネツ出現に驚いていると隣でコンが不思議そうに小首を傾げる。


その仕草に合わせ、恐らくは無意識だろうけど狐の耳と尻尾もこてんと倒れる。


可愛い。


もう本当に可愛い、コンは何て愛おしいんだ!


「はいです。クネツが神使なのは知ってるですね?」

「勿論さぁ」

「噂にくしゃみしそうです…まぁそれはそれとして、今回はたまたま紳人さんたちがアマ様の社に行くとのことでしたので」

「ふむ」

「こっそり付いてきて、お手伝いさせていただいたです♪」

「過程をいくつかすっ飛ばしてないかな!?」


彼女の行動力には度々驚かされているけど、今回もまた度肝を抜かれてしまった。


まさか偶々俺たちの会話を聞いていただけで此処まで…いや、アマ様と高天原の中心で堂々と会話していたから聞かれる可能性そのものは高いね。


「じゃあ細かく話すです」

「いやそこまでしなくても」

「あれは寒い冬の日のことでした…」

「そんなに前から!?あとこっちは年中穏やかな気候なんじゃなかった!?」

「妾の気分で変えられるぞ?」

「気分てそんな適当な!」

「良いではないか、良いではないか〜」

「使い所違うと思うんですけどぉ!」


くっ!クネツとアマ様、流石に仕える側と使役する側だけあって息がピッタリだ!


阿吽の呼吸で畳み掛けてくる…!


「コン!俺たちも負けてられないよ!」

「任せるのじゃ、わしと紳人の夫婦漫才を見せてやろう!」

「多分今張り合わなくても良いんじゃないでしょうか…?」


俺とコンが熱い視線を交わしながらも力強く頷きを交わす中、ウカミが微苦笑を溢したことによりハッと俺たちは正気を取り戻した。


危なかった、向こうのペースに飲まれかけていた…恐るべし神様たち。


「えっと、クネツが此処に居た理由は分かりましたが。貴女にその仕事の許可を出したのって、もしかして」

「そう、私です!」

「コトさん!…まぁ、ですよね」

「あらら。ばれちゃっていましたか」


桃色の髪をふわりと揺らしてコトさんが笑う。


この家のことやアマ様のお世話に関することは、コトさんが担っているんだ。


だからこそ、彼女が関与していることは容易に想像できるわけで。


「先程妾にこっそり臨時の神使を迎え入れると言っておったのは、此奴のことじゃったか」

「お許しいただき、誠に感謝していますです」

「良い良い。面白そうであったし、現に愉快じゃからの」


ぺこりと恭しく頭を下げるクネツと立派に最高神している荘厳なアマ様。


彼女たちを見ていると、陽だまりのように心が温かくなる。


美しい光景に自然と笑顔が溢れて、コンやウカミとその安らぎを分かち合い。


「じゃあ…そろそろご飯食べましょうか。折角作ってくれたご飯、美味しい内に食べたいです」


心が満たされた後は胃袋だ!とばかりに促した俺の言葉を、コンたち神様は快く聞き届けてくれたのだった。


〜〜〜〜〜


「……あれ?此処って、確か」

「おぉ紳人よ。死んでしまうとは可哀想に」

「ヨミ!?俺死んだの!?」

「落ち着いてください危険人物かみもりしんと。いつもの臨死体験です」

「その語弊のある呼び方は、ツキ!いつものって、今回はコンやウカミにもふもふの刑を受けたりは…」


目が覚めると、俺はツキとヨミの前に居た。


記憶を辿ってみてももふもふに絞められた記憶はない。そんな苦痛と幸福に満ちた記憶、俺は忘れたりしないと断言出来る。


例え、臨死のショックに襲われようとも。


「うんそうだね。今回はコンたちが原因じゃないよ」

「なら一体…ん?そういえば俺、さっきまで向こうでお昼を…ま、まさか!?」


徐々に記憶が蘇っていき、俺は一つの可能性に至った。


ツクヨミの二人は一度顔を見合わせると何処か気まずそうな顔をして、こくんと頷いてこう言った。


「そう。今回は…クネツの料理がとんでもなく下手だったからだ」

「正直に言いますと、下手なんてものじゃありません。一口食べた紳人が笑顔のままぶっ倒れたくらいです」

「嘘ぉ!?匂いも見た目も凄く美味しそうだったのに!」

「ボクらも作るところを見ていた訳じゃないけど…どうしてアレで、君を一撃で落とせるのか不思議でならないね」

「見かけによらない、ということでしょうか」


ううむ…と三人で腕を組んで頭を悩ませても、当然ながら答えが出ることはなく。


とりあえず今後絶対にクネツの作る料理だけは口にしないようにしようという、申し訳なさと危機感で作られた誓いを掲げることしか出来なかった。

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