第61話

苦くとも、その先で①

4月10日金曜日、その日…俺たちは突如として空間が震えるという謎の災害に巻き込まれその最中に美しい美少女に出会った。


……なんてことはなく。


少しずつ授業が始まりながら、皆と一緒にいつも通りの1日を過ごした。


強いてあげれば土日は休みなので心なしか楽しげな雰囲気だったくらいだね。


「ん、うぅ…」

「大きな伸びじゃな」

「気持ち良さそうです」


今日の授業が終わり放課後となった開放感に、家路を辿りつつ思い切り体を伸ばす。


コンとウカミに微笑まれ、ちょっぴり恥ずかしくてはにかみ笑いを返した。


4月ももうすぐで半ばとなる春の陽気は本当に心地が良い。


俺たちを吹き抜ける微風も、柔らかくて仄かに涼しくて快適そのものだ。


何だか甘い匂いもする。花の香りでも運んでのだろうか?


「……ん?し、紳人!ウカミ!あれを見るのじゃ!」

「あ、あれは!」

「そんな、ことって…!?」


金色の瞳を見開きビシッと道端を指差したコン。それを追って視線を向けた瞬間、俺もウカミも驚愕に足を止めてしまった。


けれど、仕方ないだろう。


コンが指差した先にあったもの、それは!


『プリンフェスティバル!食べ切れたらお題は無料の大食いチャレンジ!』


そんな謳い文句の幟をはためかせた、見たことのないカフェだったのだから!


「……いや、おかしいでしょ」

「はい。おかしいですね」


学校からそんな離れていない住宅街に、突然お洒落なカフェがあるなんて違和感しかない。


「そうじゃな…確かにおかしい」


おぉ、流石はコン。一見目の色を変えて飛びつきそうに見えて実は冷静に「無料でプリンが食べ放題なのじゃからな!」ん〜?


「ちょいちょい、コンさん」

「んむ?」

「このカフェって見たことあるかな」

「無いのう」

「今いる此処は」

「住宅街じゃ」

「つまりここにカフェがあるのは?」

「とてつもない幸運ということじゃ!」

「ん〜可愛いから良いかぁ」

「良くないですよ紳人!?コンも落ち着いてください!」


一つ一つ丁寧に確認していき、最後にコンが天真爛漫な笑顔で目を輝かせ尻尾をブンブン揺らすものだからつい絆されてしまった。


無意識にコンに手を引かれるままカフェへ入ろうとする俺。


しかし慌ててウカミに制止され、寸でのところで正気に戻ることに成功する。


危なかった…ヘルメットがあってもイチコロだった!


「むぅ、やはりダメかの?」

「私も食べたいですが此処は堪えてください…流石に怪しすぎますよ」

「プリンなら俺が作るからさ」

「ふむ…なれば仕方あるまい」


引き下がってくれたコンに、俺とウカミは視線を交わしながらホッと胸を撫で下ろす。


ガチャッ。


「なっ…」

「んでっ!」

「すとっ!?」


突然。触れてもいないのに、カフェの入り口が開け放たれた。


その奥に広がるのは…何もない暗闇。


不気味さを感じる暇もなく、そこからまともに立っていられないほどの暴風が吹き荒れる…!


「----と、手を----」

「逃げ-----」


コン、ウカミ!最早彼女たちの名前を呼べたかすらも分からない程、俺は風に囚われて。


「「-----!!」」


足が地面から離れた瞬間俺はカフェの中へと吸い込まれていった。


〜〜〜〜〜


「……ハッ!?もふもふ!」


ふと、俺は目が覚める。ってこれ前にもやったね?


起き上がって辺りを見回すと其処はまたしても見たことのない、和風の屋敷の中みたいだった。


「やっぱり罠か…」


コンとウカミが巻き込まれなくてよかった…いや、最初から俺がターゲットだったのかも?


「お?」

「……」


何となく部屋を見回していると、障子の隙間から翠色の和服に身を包んだ中学生くらいの女の子が此方を覗いているのに気が付いた。


「あの、もしかして君が」

「!」

「あっ待って!」


対して向こうは気付いていなかったらしい。


顔を真っ赤にして飛び跳ねると、思った以上の逃げ足で何処かへと走り去っていく。


俺も慌てて立ち上がりその女の子が逃げたであろう方へ駆けていくのだった。

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