始まりの日、舞い散るは?③
「それじゃあ真奈ちゃん、一年生の教室はあっちだから。入学式頑張ってね」
「寂しいですよぉ…お兄さん一年生からやり直しません?」
「高校5年生って二つ名になるかな」
「いぶし銀とは真反対の称号じゃからやめておけ?」
燻みどころか恥に塗れたものになるので、此処はしっかりと断る。わざとらしく頰を膨らませた真奈ちゃんは、入学式前の仮教室へと姿を消した。
「全く、彼奴め。油断ならん奴じゃ」
「そうなの?財布はポケットに入れてあるけど」
「財布の話であればお主のことじゃから心配要らんが、そうではない」
どうやらそれではないらしい、まぁあの子が盗むとは到底思えないからね。
しかし、となると…?
3年生の教室は二つ、3-1か3-2でそのどちらかに俺とコンの名前も書かれているはずだ。
それを目指して階段をゆっくり登りながら、コンが警戒していた理由について頭を悩ませる。
けれどさっぱり思い当たらずうんうん唸っていると、コンがムッと少し怒ったような顔を見せながら足を止めてこう言った。
「紳人…お主はもう少し異性に対して警戒心を持つべきじゃ!親しい間柄であれば尚更にの」
「人並みにはあるつもりだよ?」
「ではお主の友である田村がわしに抱きついたらどうする」
「花を手向けてあげなきゃね」
「亡き者にするのは確定か!?…まぁ、そういうことじゃよ」
「分かった、気を付ける!」
新学期早々、学びを得ることが出来た…これからはコンに嫉妬させないよう気を付けないと!
……極力、で。
「おぉ…皆、楽しそうじゃな」
「友達付き合いにおいて学校生活はうってつけだからね。好きなだけ顔を合わせられる学校が無いのは無いで、暇なのさ」
きゃっきゃと楽しそうに廊下で話し込む女子たちやクラスを行き来する男子、東方は赤く燃えていると拳を合わせる者たち…皆3年生に上がってはしゃいでいるようだ。
「いや、最後何かおかしい奴らがおらんかったか??」
「気にしちゃダメだよコン!さ、とりあえずクラスを確認しよう」
「う〜む…それもそうじゃの!」
ニコッと華やかな笑顔を浮かべ付いてくるコンと3-1の張り紙から名前が載っているかを確認していく。
え〜っと、神守だからか…か…。
「お!あったよ、コン」
「つまり…紳人と今年も一緒にいられるんじゃな!?やったのじゃあ〜!」
ブンブン!勢いよく尻尾を揺らして喜ぶコンがあまりに可愛くて、無意識に頭を撫でようと手が伸びる。
「ハッ!」
「?」
先程、コンに警戒心を持てと言われたばかりではないか。俺とコンが恋人同士…どころか婚約して、愛し合っていることは皆には秘密にしている。
あれは異性との物理的な距離感に対して、という意味ではあるだろうけど…此方に関しても注意していかなければ。
俺が撫でると思っていたみたいで耳をぺたりと伏せつつ、コンは不思議そうに俺を見上げたまま動かない。
他の皆はクラス替えやら新学期やらではしゃいでおり注目されている気配はない、でももし仲良すぎない?と思われたら…!
「紳人…焦らすのは、ズルいのじゃあ」
「!!」
自ら小さな手のひらで俺の手をきゅっと包むと、ぽすっと自身の頭の上に押し当てる。
その瞬間。全てがどうでも良くなった。
かっわいいいいいい!!俺の嫁!!!
なでなで…周囲から見られることすら気にせず、コンの喜ぶままにその頭を撫でる。
「紳人くん、柑ちゃん…3年生になっても仲が良いね♪」
「うやっ!?」「わぁっ!?」
いつの間にかニコニコ笑顔の未子さんが隣に立っていた。慌てて俺たちは、互いに一歩距離を取る。
「おはよう2人とも、私も同じクラスだよ♪というか…いつものメンバー全員集合って感じみたい?」
「ということは、もしかして」
「おは、よう…僕も一緒だよ…!」
「明!おはよう。今年もよろしくね」
未子さんの横に明が並んで、控えめに笑顔を見せてきた。
明だけ隣のクラスなのが気がかりだったのでこれは素直に嬉しい。
「おはよ、紳人♪早速だけどタンスの角に連続で小指をぶつけてくれないか?」
「やぁ悟。君の方こそ、3日間くらい寝違えてほしいものだよ」
教室から笑顔かつ拳を握りながら現れた悟。挨拶代わりに不幸を願われたので、ささやかなお返しをした。
「皆同じクラスとはな。本当に偶然かも知れぬが…ウカミがそうしたという可能性もあるのう」
「ウカミのみぞ知る、ということにしておこうか」
勢揃いの顔ぶれに俺とコンは微苦笑を溢す。
どちらなのか、本当に分からないのがウカミらしい…。
「は〜い皆さん。もうすぐ入学式が始まりますので、並んで体育館に行きますよ〜♪」
「噂をすれば、姉さんだ」
スーツ姿のウカミが微笑みながら姿を見せて生徒たちを案内する。
うちの高校の入学式と始業式は、簡単に纏められ一つになっているので在校生である俺たちも参列するんだ。
「俺たちも並ぼう」
新たな一年に心躍らせながら俺たちは体育館へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます