第58話

始まりの日、舞い散るは?①

「……」

「しん、とぉ…プリン100個食べたいのじゃあ」


目覚まし時計よりちょっぴり早く起きた4月8日の朝。


コンらしい欲張りな寝言にくすっと笑ってしまいながら、彼女の頰に掛かっていた髪を指でそっと横へ流す。


俺の腕の中、自らの尻尾を抱き枕にしながら丸くなって眠るその寝相はこの上なく愛らしい。


「んぅ…」


どんな夢を見ているのだろう、時折パタパタと耳を揺らしながらモゾモゾと身じろぎをする。


その橙色の耳や尻尾と長い睫毛にぷにぷにの頰は可愛らしさと大人びた色香を醸し出していて、本当に綺麗だ。


ずっと見ていたい、そして叶うなら今すぐに襲ってしまいたくなる…けれど。


実は一昨日の夜にウカミが急用だと『神隔世』へ出掛けたのだ。


そうなれば俺とコンは2人きり、つまり……その、そういうことをしたのである。


なので流石に今襲ってしまうのはがっつきすぎな気がするし、隣の布団には背中と尻尾を向ける形で眠っているので過度ないちゃつきは起こしかねない。


……そう。今はただ、この温かな心のままにコンの可愛い姿を堪能しているだけで良いはずなんだけど。


「っ!」


俺の眼前には、何故か脱ぎ捨てられたパジャマと白の下着(上)がある。


つまり!


「うゃ…♪」



何で!?どうしてそうなったの!?


コンの寝相は出会いから暫く経った今でも治っていない。3年生としての生活が始まろうとも、こんな刺激的な朝は変わらず訪れるのだろう。


「ん…紳人?」

「コン、おはよう」


ピクピクと瞼が震え、雪解けのようにそっとコンは目覚め金色の瞳を見せてきた。


咄嗟の切り替えによりだらしない顔を晒すことは避けることに成功。


しかしその際自然と尻尾はコンの前から退けられ、そうなれば当然…。


「あっ」

「ん?」


俺もコンも、さらけ出された色白の肌と控えめなお胸を無言でまじまじと見つめてしまう。


薄暗がりの中でも神々しく映えるその御姿は、俺の視線と心を掴んで離さなくて。


「……助平め♪」

「あ、えと、これはその!」


艶やかな微笑みと扇情的な囁きを頂戴するまで見惚れてしまうのだった。


「この前はあんなことやこんなことをしてやったというのに…いつまでも初々しくて、可愛いやつじゃなぁ」

「こ、コンさん!?あのですね、胸、胸見えてるから!せめて服を…!」

「ほ〜れママじゃよ〜?」

「わぁい僕、ママのパジャマ姿が見たいな!」


ぎゅむっと尻尾で抱き寄せられ、コンのふにふにと柔らかな胸から顔を離せない。


この顔の火照りがコンの肌なのか恥じらいによるものなのか、判断つかない中でまた気絶しないようもふもふをこっそり堪能しつつ必死に堪えていると。


「ふふっ…それじゃあ、お姉ちゃんはどんな格好しましょうか?」

「あ、えと。エプロン…かな」

「裸でですか?もう、弟くんったら♪」

「誤解ですぅ!」


いつの間にか目覚めたらしいウカミも後ろから抱き締めてきて、俺の心はジェットコースターのように激しく揺さぶられてしまう。


「紳人。わしだけで良いよなぁ?」

「私も欲しいですよね、紳人?」

「……あ、あー!遅刻しちゃいそうだー!朝ごはん作るねー!」

「あっこれ!」

「逃げちゃいましたか…」


ガバッ!としゃにむに二神ふたりの間から抜け出すと、顔を洗うために洗面所へと逃げ出したのだった。


新学期早々、理性を強いられる…!

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