日の下で、荒ぶる風④

「紳人よ、今宵はどうする?泊まっていくか?」

「そうですねぇ…」


白い髪と狼の耳尾を揺らし、少し目を輝かせながらアマ様がそんなことを訊ねてきた。


半ば拐われたような形ではあったけど折角の機会で、此処のお風呂は気持ち良いしご飯も美味しい。


主たる彼女が了承するならコトさんも受け入れてくれるだろう。


「コンとウカミが良ければ、お邪魔させていただきたいです」


俺はコンたちを見ながらそう返した。


コンとしても問題はなさそうだし、ウカミに至っては久方ぶりのお父さんとの再会…積もる話もあるだろうしね。


「わしの居場所は紳人の隣じゃからな!無論、良いぞ。ウカミもお父上と話したいこともあるじゃろう?」

「ふふっ…そうですね。今夜は、皆さんの優しさに甘えさせてください♪」

「うむ!では早速夕餉の準備じゃ〜!」

「任せてください!今日はスサノオさんも居ますし、一層腕が鳴りますね!」

「コトさん、お手伝いしますよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


全員天岩戸に上がっていつものように俺とコトさんは調理場へ、他の皆はアマ様の部屋で談笑しつつ待つことに。


「あ、私も行きます!」

「ウカミはゆっくり休んでて?お父さんや皆とのんびり話でもして待っていてほしいな」

「そうですか…分かりました。そうさせてもらいます」

「コン、皆と待っててね」

「なるべく早く帰ってくるのじゃぞ…寂しいのじゃからな!」

「約束するよ」


くすっと微笑むウカミとコンに頷きを返しながら、俺とコトさんは今度こそ調理場へと向かった。


「……ふむ」


ニヤリと含み笑いを浮かべる、スサノオの視線には気付かないままに。


〜〜〜〜〜


今日の夕餉…夕ご飯や晩ご飯に当たるもののメニューは、俺たちが食べようとしていた煮物に決定した。


スプーンで一口大に千切ったこんにゃくをボウルに入れ塩をまぶしてアク抜きをしながら、皮を剥いたにんじんやレンコンを乱切りにしていく。


その最中、もう一つ気になったことが出来たので聞いてみた。


「コトさんコトさん」

「はいはい?」

「コトさんとお義父さんって、お知り合い?」

「あぁ…気になりますよね」


何処かくすぐったそうに笑いながら、桃色の髪を揺らしてコトさんは俺の目を覗き込む。


「紳人さんはスサノオさんとアマ様の間にちょっとした騒動があったのをご存知ですか?」

「えっと、お義父さんが暴れるから攻めてきたと勘違いしたって話でしょうか」

「そうです。その際、スサノオさんはただ会いにきただけだと証明するため、アマ様はスサノオさんの剣をスサノオさんはアマ様の付けていた曲玉まがたま其々それぞれ砕いたんですよ」


コトさんと手際良く料理を進め、少し大きな鍋にごま油と食材を入れ炒めながらピンとほつていた記憶の糸が脳裏で、繋がった。


「思い出した!確か、スサノオさんの物から女の神様が生まれたら信じて欲しいって話ですよね」

「はい。それで三柱の女神が生まれたのですが…私は、その内の一神ひとりなんです♪今後の友好の証にと、生み出した神様を自分たちの補佐にした…という訳でして」

「そうだったんですか。ありがとうございます、すっきりしました!」

「いえいえ、私のことを気にする方もいないので話す機会なんて殆ど無いからお話出来て楽しかったです」


水とだしを入れ中火で煮ながら向かい合うと、今度はコトさんから質問が飛んでくる。


「ところで、紳人さんはスサノオさんの娘さんに関するお話は知っていますか?」

「うーん…。ごめんなさい、そこまでは」

「いえいえ良いんです!ただ」

「ただ?」

「ウカミ様と力を合わせて頑張ってくださいね」

「???」


その発言の意図するところが分からず何度も聞き返すけれど、彼女は答えてはくれなかった。


やがて完成した料理を皆でワイワイ賑やかに囲み。


穏やかに時間は流れ就寝の時間になった時……俺は、コトさんが言った言葉の意味を知ることとなるのだった。

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