第33話
あんな式、コンな一日①
「……紳人、これ紳人」
「んぅ、う…コン?おはよう…」
「うむ。おはようじゃ♪」
体の上から心地よい熱と質量に包まれながら、コンの声で目が覚めた。
大きな欠伸をしながら徐々に意識が覚醒していく。
それに応じて、今の状況の異質さに遅れて気付いた。
「あれ?コンが起きている?」
「ふふ〜。どうじゃ、出来る妻じゃろ」
コンが得意げに胸を張り腰に手を添える中、俺は感慨深さのあまりつい何度も頷いてしまう。
「あぁ…凄いよコン!パジャマもしっかり着ていて偉い!」
「ん〜♪そうじゃろそうじゃろ〜?」
耳を伏せ撫でやすくしてから俺の方に頭を差し出すので、迷わず髪の流れに沿って優しく頭を撫でて褒めちぎる。
部屋に差し込むカーテンの隙間から漏れた朝日。
それがこの二人きりの寝室を優しく彩る中、俺はまじまじとコンを見つめた。
絹のように柔らかい手触りなれど光に艶やかな煌めきを見せるその髪や耳と尻尾は、神々しいくらいに美しい。
……いや、コンは紛れもなく神様なのだから神々しいのは当たり前だけど。
それでも本当に綺麗だと思う。
加えて。この上ないくらい、可愛いのだ。
俺の何倍何十倍と生きているコンだからだろう、あどけない顔立ちや背丈に反して彼女が纏う雰囲気や色香は大人びた女性よりも洗練されている。
その妖しさも俺が惹かれる理由の一つなんだよな…。
と思っていたら、寝室の戸が開けられひょこっと顔を出したウカミがニコニコ笑顔でこう言った。
「でもコン、昨日こっそり私にお願いしてきましたよね?紳人より早く起こしてくれ!って」
「そうなの?」
「これウカミ!それは内緒じゃとも言っておいたではないか…!」
「あっそうでした!ごめんなさい、うっかりですっ」
ちろりと舌を見せて茶化したウカミが再度リビングの方へと引っ込む。
残された俺とコン。先程まで誇らしげだっただけに、真実を知った今声を掛けづらい…。
「……本当は、ウカミに起こしてもらったのじゃ。今日はお主の誕生日…そしてわしらが真の意味で結ばれる日」
「うん。俺もコンも、そしてウカミも。今日という日を心待ちにしていたと思う」
「その通りじゃ…故に、の?
今日最初にわしの下着や肌を見るのは…逢瀬を始める時が良いと思うてな」
顔を赤くしつつも少しばつが悪そうに視線を落とす様がとても愛らしくて、上半身を起こしてぎゅっと抱き締めながら囁いた。
「俺は嬉しいよ、コン」
「紳人……」
「だってそれは君が俺のことを考えてくれた証拠だもん。男として、コンを愛する神守紳人として。こんなに幸せなことは無いさ」
「そう、か。なれば良い…ありがとう紳人、愛してるのじゃ」
「俺もだ。俺も、コンのこと愛してる」
受け止めるようでいてその実甘えているかのような不思議な瞳に魅入られ、吸い込まれるようにキスをしてしまいそうになるものの。
通知でライトアップされたスマホの画面を見るとそろそろ朝ごはんを作り始める時間だ。
今日は卒業式もあるのでウカミや俺たちは最後の準備に取り掛かる必要があり、その為早めに登校しなければいけない。
「キスも一旦お預けだ」
「仕方なかろう…後で沢山、してもらうからな♪」
俺とコンはくすっと笑い合うと鼻先をくっつけてキスの代わりとした。
そして各々立ち上がると、俺がささっと着替え先に寝室を後に。
その後僅かな間を置いてコンが寝室から姿を現す。
「今日の朝ごはんは、俺から
「よろしく頼むぞ!」
「お願いしますっ」
顔を洗ってシャキッとした俺はムンと気合いを入れた。
ちゃぶ台型テーブルの前に座り、コンとウカミが笑顔で俺を待つ。
俺にとって…今年から誕生日にはもう一つ特別な意味を持つようになった。
言わずもがな、コンとウカミと出会えたことである。
彼女たちが居てくれたから俺は生きていて、そして変わることが出来た。更には毎日、幸せな日々を送らせてもらっている。
ありがとうとよろしく。これらの気持ちを込めて…いつも通りの朝ごはんを作るとしよう。
この何気ない日常こそ、かけがえのない縁なのだから。
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