第26話

巡る星、求めるは誰①

「んむ?紳人よ、何をしておるのじゃ?」


コンとウカミがお風呂に入っている間に…と台所で作業をしていると、後ろからぽふっとコンの顎が俺の肩に乗せられた。


因みにコンは若干背伸びをしている。


「おかえり、コン。明日はほら、『神隔世』に行くでしょ?その時トコノメやアマ様たちにお土産として渡すプリンを作ってるんだ」


補習期間が始まる前のこと。


テストお疲れ様会を開いているときに、トコノメから『我の分は?』と威圧的にねだられた。


なのでその時、今度の土日で持っていくと約束したのである。


違えたらどうなるか分かったもんじゃないので、しっかり念頭に入れていた。


アマ様たちの分は、約束はしていないけれど向こうに着いて顔を合わせた際にトコノメにだけ渡したとバレた際がめんd…申し訳ないので、ついでだ。


「よし、後は寝かせて完成だ。喜んでもらえるといいけど」

「じーっ」

「……コンとウカミ用に、すぐに食べられるプリンも作って冷蔵庫にあるよ。晩御飯の後にデザートで食べようね」

「流石紳人じゃ!分かってるのう♪」


ウキウキで尻尾を揺らして鼻歌混じりにソファへと戻っていく、そんな可愛らしい背中を見つめながら微苦笑をこぼす。


コンと出会って…いや厳密には再会してから、明日の3月1日で綺麗に1ヶ月になる。


毎日がイベント過ぎて本当にあっという間だった。


でも、これで終わりじゃない。


明日も、来週も、来月も。俺とコン、ウカミの神守一家の日々は続いていく。


あぁ…そういえば父さんたちに婚約の話をするの忘れていたな。


また今度でいっか、今日も2人きりで仲良く愛し合ってることでしょう。


俺の結婚報告と弟か妹の出来た報告、どちらが早いだろうか…流石に俺の方だよね?


「まさか俺たちのおめでたが何よりも先ってことは無いだろうな…?」

「コンと紳人なら、あり得ますね〜」

「うわぁ!ウカミ!?」

「はい、いつもニコニコ貴方の…」

「邪神様の名乗りを使うのはSAN値的にNG!」

「釣れませんねぇ…ちょっとしたお茶目なのに」


そのちょっとしたお茶目で上位存在に睨まれたらたまったものではない。


「さて、晩御飯にしようか」

「主食は紳人じゃな?」

「まぁ♪ご馳走ですね!」

「違いますぅ!それはもっと香辛料の効いた体になってからお出ししますぅ!」


揶揄われているの分かっていても、どうしても顔が熱くなってしまうのを止められない俺だった…。


〜〜〜〜〜


「……」


翌朝、3月1日の日曜日。


記念すべき1発目の目覚めは…純白の布に包まれたものだった。


この感触は紛れもなく、コンのブラジャーである。控えめなれど無い訳ではないコンの胸は、その形も柔らかさも素晴らしい。


それは下着に包まれていても隠し切れるものではない。理性的には是非とも隠して欲しかったところだが。


ゾクゾクが…有り体に言えばムラムラと胸の奥からイケナイ太陽が昇り始めるので、慌てて諸々目を逸らそうと何とか寝返りを打つことに成功する。


「んぅ…」


今度は宵闇の帳に包まれた。


けれどそれもまた錯覚。今度は何故か下着姿のウカミの谷間に、俺は顔を埋めてしまったらしい。


何故…何故この神様たちはこうも俺に試練をお与えになるのか…ッ!


今すぐ雄叫びを上げる本能のままにコンを襲ってしまいたくなる。


けれど、それは俺を信頼して一緒に寝てくれる二神ふたりへの裏切りに他ならない。


故に!絶対に、何があっても!手を出すなんてことはあっちゃいけないんだ…!


「紳人ぉ…」


コンの囁き声が耳元で響く。あぁ負けそう!!


そもそも、何故俺は今必死に自分と戦っている?今こそ一丸となって心のままになるべきではないのか?


頭の中で俺の中の天使と悪魔が、刹那の間をおいてガッシリと肩を組んだ!


シュバッと倍の速さで再度寝返りを打ち、コンの胸に自ら顔を押し当てる。


ふにふにと柔らかな感触は、俺が首を少し動かすだけで形を変えて俺を受け止めてくれる。


幸せだ…ずっとこうしていたい、後はモフモフの尻尾に包まれていたら言うことは。


「なるほどのう…?」

「ハッ!?」

「お主、夢中になり過ぎじゃ…声に出ておったぞ?このすけべめ♡」


不意に声が降り注ぎ慌てて顔を離すと、慈愛に満ちた微笑みで俺を見つめるコンが居た。


「あっ、いや、これは…!」

「触りたいか?」

「え、」

「わしの胸を…触りたいかの?こんな布切れ越しではなく、直接」


思わずまじまじとコンの胸を見つめる。呼吸に合わせて小さく上下する様は、何処までも神秘的で。


「……触りたい」


俺は、ついに負けてしまった。


「ふむふむ、そうかそうか。愛いやつじゃ…勿論」

「!」

「駄目じゃ♡」

「なっ!?」

「それはお主の誕生日までお預けよ。散々わしに据え膳を我慢させおって、お主だけ好きに食べられると思うでないぞ♪」


ケラケラと楽しげに笑うコンを前に、俺は生まれて初めて自分の理性の強さを後悔した。


「私ので良ければ、お好きなだけどうぞ?尻尾だってこの通り…遠慮なく」

「もふもふ!?あっ」


二つのもふもふを好きにしてほしいと言われ、ぐりんっと思い切りウカミへと振り向いてしまう。


慌てて我に返りコンへ向き直るものの…時既に、遅しであった。


「そんなにもふもふが好きなら…お望み通り!わしの尻尾の中で果てるが良い!!」

「ぐあああああっ!!」


……命を刈り取るようなもふもふ締めから、意識を取り戻した後。


間近で見ていたウカミから「輪ゴムで割れそうになっているスイカみたいでしたよ」と表されるのだった。

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