あどけない神、譲らない神②

「…でも、いいなぁ」

「?」


むふふ〜と上機嫌で体を揺らすコンと反対に、何処か寂しそうな顔になったウカミちゃん。


思わずその顔を覗き込むと瞳を潤ませながら幼い神様は顔を上げた。


「わたしのお父様もお母様も、いつもお忙しそうで…たまにしか遊んでもらえないんです」

「そうじゃったのか…あまり彼奴は自分のことを話さんかったからのぅ、そんな幼子だったとは知らなんだ」


俺は当然聞いたことはなかったけれど、コンですら知らなかったらしい。


ウカミちゃんには悪いが貴重な体験だ。戻るまでの間だけ、楽しませてもらおう。


「よおし!なら俺たちと遊ぼう!」

「そうじゃな、幸い今日は土曜で学校も無い。打ってつけじゃろう」

「え?良いんですか!」


俺の思いつきにコンも賛同してくれた。


同時に頷くとパァァ…と無邪気に瞳を輝かせるウカミちゃん。


「といっても…我が家にあるのはゲームとかトランプとかで、ウカミちゃんに喜んで貰えそうなのは」

「では、おままごとをしましょう!」

「おままごと?それで良いの?」

「はい♪」


ポンとやはりウカミ本人なのだと思わせるような上品な仕草で手を打ち合わせる。


確かにあれなら凝った道具やスペースも要らないし、1人では出来ない遊びだからやってみたかったんだな。


順当に考えれば俺が父親、コンが母親。ウカミちゃんが娘だけど。


二神ふたりが夫婦で俺はペットという可能性もある。


でも安心して欲しい。この不肖紳人、一度やると決めたことには何事も全力で取り組む男。


犬でも猫でもハムスターでもインコでも、ウカミちゃんが喜んでくれるなら何でもなりきってみせようじゃないか!


「ではえっと…紳人さんはわたしとコンさんの旦那さんでお願いしますっ」


参ったな、ともすればペットより難しい役をやらされそうだ。


「の、のうウカミよ。普通であればこういう場合どちらかが親でどちらかは子をするものではないのか?」

「そうかもしれませんが、私たちは神様ですから!一夫多妻というのもおかしくはないですよ」

「……」


コンが瞼を閉じてぷるぷると痙攣する。


恐らく今、彼女は確かにその通りだという感情とおままごととはいえ自分以外の妻が俺に出来るなど…という感情の板挟みになっている。


或いは、ウカミちゃんへの優しさと自分の本音の狭間で。


俺のことを思ってくれるのは嬉しい。しかし、それで大人げないことをさせるのは気が引ける。


なので俺はコンへと体を寄せて、小さな声で囁いた。


「俺の愛する奥さんは、後にも先にもコンだけだよ」

「よぉしやろうではないか!夫婦の手本というもの、見せてやるのじゃ!」

「わぁいありがとうございます♪」


コンがやる気になってくれて良かった。やはり何事も、本心を伝えるのは大切だよね。


ほんの少しの間、お遊戯に付き合ってあげようじゃないか。


娘のお願いを聞いてあげるのも…俺たち『夫婦』の役目だろう?コン。


こうして。俺たちは夫1人と妻が二神ふたりの不思議な家庭事情でおままごとを開始した。


「ただいま〜」

「おかえりなさい、」「おかえりなのじゃ、」

「「旦那様!」」

「ありがとう。ウカミ、コン」


リビングへの戸を開けて帰宅の真似をすると、エプロンを付けたウカミとコンが俺を出迎える。


因みにコンが青、ウカミが橙である。コンは俺用の青でウカミはコン用のものだ。


「お風呂にしますか?」

「ご飯にするかの?」

「「それとも…」」

「わ•た•し?」「わ•し•か?」


同時にウィンクして言うものだから、何だか1人の男としての通過儀礼を通った気分で感慨深い気持ちになる。


惚けて何も言えずにいると、ムッと眉を寄せて不満げな顔になったコンたちが俺の左腕と右腕に抱きついてきた。


「此処は本当の婚約者であり添い遂げることを約束しているわしの顔を立てるべきじゃろう?」

「これはおままごとです、わたしもコンさんも同じ立場ですよ!」

「まぁまぁ2人とも…」

「幾ら幼いウカミでもそこは譲ってやれぬ!」

「すぐに大きくなりますし、わたしだってお嫁さんなんです!」


二神ふたりの会話がヒートアップしていき、宥めようとした俺の言葉も遮られ双方抱きつく力が強くなっていく。


あぁ、まずい。この流れは…!


「紳人!」

「紳人さん!」

「はい紳人です…」

「「何方を選ぶのじゃ(選ぶんですか)!?」」


おままごと第一回目にして、修羅場突入。


……どうしてこうなった?

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