第25話
あどけない神、譲らない神①
「コン、どうしようか」
「紳人よ。…わしにも分からぬ」
ひとまず俺のブカブカのシャツと動きやすいズボンを履かせてはみた。
が。以前としてつぶらな瞳でキョロキョロと家の中を見回す、小さなウカミことウカミちゃん(そう呼称することにした)への対処法が分からない。
「この手のものは…時間経過で解けるとかは聞く話だけど」
「並の神の悪戯ならばあながち間違いでもなかったじゃろう。しかし、ウカミ程の者が行使したとあっては…何週間或いは何ヶ月かかるのやら」
「神様の力というのも、繊細なんだね…」
興味津々とばかりに視線を彷徨わせているのを良いことに、背を向けてコソコソと内緒話を続ける。
「そうだ!子供のイメージが逆流してこうなったなら、反対に大人のイメージを流し込んだら…?」
「それは最終手段じゃな…今の不安定な状態に手を加えたら、かえって戻るのが遅くなる可能性もある。グラグラし始めたジェンガを慌てて押さえようとする感じにの」
確かにそれはともすれば悪化を招きかねない。今は見守るのが最適解のようだ。
「……あの〜」
「な、何じゃ!?」
「もしかして此処って、人間の世界ですか?」
「よく分かったね…やっぱりウカミはウカミなんだ」
「『神隔世』とは雰囲気が違いましたし、お兄さんから神気を殆ど感じなかったので。人間さんかな〜って♪」
賢い。伊達に神様のまとめ役に近いものを担ってはいない、ということか。
こんなに幼い頃から良い目を持っていたのだろう…ってちょっと待って?
「今、殆どって言った?俺はれっきとした人間なんだけど…」
「はい。ごく僅かだけ神気が入っています、震度1くらいの規模なので全く問題はありません!大丈夫です!」
なら問題ないか。
とはいえ何処で入ったかな…?色んな神様に会ったり、色んなところへ行ってるから心当たりがあり過ぎて。
「これは…どうやら、貴方のお隣の神様の神気ですね」
「つまり…」
「わしのか」
コンと見つめ合い、少し考えてポンと手を打つ。
どうやらコンも気付いたらしい。!と尻尾を立てて、納得したように頷くと同時に口を開いた。
「「キスのし過ぎ」じゃな」
日々あれだけ濃密にキスをしていたから、ほんの少しだけ混ざってしまったんだ。
「これは、もうしない方が良い?」
「お気になさらず。お2人のき、キス…の頻度がどのくらいかは分からないですが、どれだけ交わそうと微々たるものです。影響は無いに等しいでしょう」
「良かった…」
キスの部分で顔を赤らめる新鮮なウカミちゃんにほっこりしながら、思わず胸を撫で下ろす。
「ほぉう?何故、良かったのじゃ?」
「へ?」
不意にコンが俺にしなだれかかり、綺麗な金色の瞳を細めながらそんなことを囁いてきた。
その所作の魅惑と妖艶さに、反射的に喉を鳴らして見惚れてしまう。
「それは…ほら、コンなら分かるだろう?」
「んゃ〜わしもまだまだじゃ。お主の言わんとしておることがてんでわからぬ、どうか教えてくれぬかのぉ?」
「わたしも気になりますね〜」
「う、ウカミまで!」
徐々に近づくコンの顔から目が離せなくなり、いつの間にか近くへ寄ってきていたウカミちゃんからも詰め寄られていく。
絶対に揶揄われている。間違いなく弄ばれているのだが…嫌かというと、そうではないからかえって困るのだ。
このまま誤魔化そうとしても墓穴を掘るだけ。素直になるしかないか…。
「…だって、もしキスできなくなったら」
「「できなくなったら?」」
「……コンとの愛情表現が減って、寂しいだろう?あれは俺からコンへの甘えでもあるんだから」
俺にとってコンとのキスは大切な時間であり、大切なことだ。
コンの柔らかく温かな唇と、虜になるほど甘美な舌と唾液。それらはもう俺にとって、無くてはならないものになっている。
中毒とか、そういった危ない意味ではない。
純粋にかけがえのないものになっているんだ。
コンへと溢れんばかりの愛情を伝え、またコンからの包み込むような愛情を受け取るためにただ触れ合うよりももっと深く繋がれる。
それが俺にとってのキスなのだ。失われるにはあまりに苦しい…それほどまでに、俺はコンのことを愛している。
「「……きゃぁ」」
それらを全て伝え終えると、コンもウカミちゃんも顔を真っ赤にして耳と尾をパタリと伏せていた。
少し、気持ち悪かったかな…。
「軽く揶揄うつもりじゃったのに、こうも容易く予想を上回るとは。流石はわしの旦那様じゃ…♡」
「末長くお幸せに…」
違った。少し変な方向に2人が空回っていただけだった。
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