2つの影を、見守り笑う②
「ただいまです、アマ様、コトさん。…姉さん」
「弟くん…!」
お風呂から上がり、自分たちの髪とコンのもふもふの耳や尻尾を乾かし終えてアマ様の部屋へと戻る。
其処では、既に晩御飯の支度を終えたらしい3
此方を見て微笑むウカミの顔を見て、これくらいならと試しに彼女のことを呼ぶとパァッと顔を輝かせた。
「あぁ!ウカミだけずるいのじゃ!妾は、妾は!?」
「流石に主神を呼び捨てにするのは不敬かなって…」
「嘘じゃな!揶揄っている時のコトと同じ顔をしておる!」
あっバレた。
厳密にはそれも一つの理由ではあるのだが、最もたる理由はこう言うと良い反応をしてくれると思ったからである。
流石に耳元で囁いただけで落ちることはないだろうからね…。
とはいえ、む〜!と頬を膨らませるアマ様を見ていると主神を揶揄ってる時点で不敬か?と思い直し隣のコンを見て囁く。
「コン…耳元じゃなければ、呼んでも大丈夫かな?」
「う〜む…そうじゃな。それくらいならば問題なかろう」
「では改めまして…アマテラス」
「〜〜!これは癖になるのう…人間に面と向かって名を呼ばれるというのは!」
名を呼ばれたアマ様は爛々とその瞳を煌めかせ、堪え切れないとばかりにブンブン小さく手を振って喜色満面といった様子だ。
普段は直接顔を合わせることも視認されることも、まして親しく名を呼ばれることも無い。
……蓋を開ければ、意外と神様は寂しがりのようだ。
俺もコンや皆が見えているのに言葉を交わせなければ、目を合わせられなければ。
それはとっても…寂しい。
「……では、お嫁にしてもらえるという私の願いも?」
「それは来世に期待してください…」
ここぞとばかりに口元を手で隠して目を細めるコトさん。
ヒヤヒヤするその軽口にため息をつくと、真に受けたコンがぎゅっ!と強く俺を抱き締め勝ち誇った笑みを浮かべた。
「生憎じゃが、来世もわしの隣に居るのは決定事項じゃ。諦めておくれ」
「それは残念です…」
しゅんとした素振りを見せつつも、僅かに覗く口元は笑っている。
それは可愛らしい反応を見せるコンに向けてか、それとも…来世も一緒だと言われニヤケてしまうのを隠せない俺に向けてか。
深くは考えないでおこう…恥ずかしいから。
「ところで、皆さんはお風呂に入らなくて良いのですか?」
「晩御飯を食べ終えてから妾たちは順番に入るつもりじゃ。一緒に入るか?もふもふを好きにして良いぞ?」
「もふもふを…!?」
胡座をかきコンを膝に乗せていた俺は、その誘惑に思わずアマ様の尻尾を見てしまう。
これ見よがしに揺らされるその尻尾はコンやウカミの綺麗な尻尾とはまた違う、少し野性みの残る尻尾だ。
しかしそれが乱れているとか手入れされてないとか、そんなことはない。
自身の凛々しさや力を誇示するように、美しく整っているのである。
どんな手触りなのだろう…手だけじゃなく、顔でも堪能出来たらどれほどの…!
「それとも…この胸を好きにしたいか?」
「む、胸…!?」
腕で胸を軽く持ち上げ、前のめりになり強調して見せ付けるアマ様。
情けなくも、言われるままに反応して視線を注いでしまう。
「やはり乳か?あのたぷたぷの乳が恋しいのかの?」
「あっ……」
ふるふる…と肩を揺らして俯くコンに言われ、漸く俺は気が付いた。
……俺って、ほんとバカ。
「晩御飯まで一眠りしておけ、たわけぇ!」
「ま、待ってコン!」
ギリギリギリ…!心なしかいつもより締め付けの増したコンの尻尾を、何とか優しくポンポンと撫でてストップをかける。
「何じゃ?このおっぱい星人め」
「お、俺が好きなのは…コンだから…!」
締め付けを緩めてはくれないものの、辛うじて意識が保てる程度で留めてくれる。
この好機を逃せば、またいつもの流れで気絶させられてしまう…!
その前に何としても、これだけは伝えたかった。
「……わしの、どこじゃ?」
「ど、何処って…挙げればキリが無いけど…」
「今は、何処が好きと言うべきが分かるな?」
今、最も好きと言うべきところは…。
ピシャンと脳裏で閃いた。しかし、男たる俺の口から言うのは憚られるが…コンの乙女の純情が掛かっているのだ!
漢を…見せる時!
「俺は…俺はっ!」
「……」
「コンの胸が大好きだぁぁ!!」
「よう言うたぞ紳人よ!それでこそわしが惚れる男じゃあ!」
尻尾が俺の顔から離れ、代わりにコンの胸にむぎゅっと抱き寄せられた。
恥じらいを振り切った俺と喜びを露わにするコンは、固く抱き締め合う。
そして何度も互いの名を読んで、愛と幸せを噛み締める。
「……けしかけたのは確かに妾たちじゃが」
「私たちは一体、何を見せられてるのでしょう…?」
「軽い気持ちで2人を揶揄うと、時折おかしくなっちゃうんですよね…」
ウカミたちが何かを話していた気がしたけど、俺とコンは呼び合うことに夢中で耳に入ってこなかった。
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