天照らす、昇る陽は④

「全く…お主はもう少し危機感を覚えるべきじゃ」

「命に対する危機感なら、現在進行形で覚えてるんだけど…」

「たわけ!これはお主を縛り守るためのものよ」


コンの尻尾が首に巻き付けられ、少しでも力を入れられたら窒息しかねない状況の中。


俺はウカミやコトさんたちと共に、アマ様の部屋へと案内された。


「……ところで。あの、アマ様」

「何じゃ?」

「何故…俺の隣に?彼方に座られなくて良いのですか?」


集団で入っても余裕があるほど大きな部屋の中心で、俺たちは小さく輪になって座っている。


そして彼方、というのは部屋の最奥。


豪華な意匠のあしらわれた肘置きのある、1人用の座席が鎮座ましましているのだ。


「妾1人であそこに座ってもつまらんのじゃ。お主も一緒なら、考えるがのぉ?」

「幾らアマ様でも紳人は譲れないのじゃ!わしの紳人なんじゃ!」

「ちょっとくらい…」

「駄目じゃっ!」


むぎゅっ!とコンに頭を抱き締められ、俺の左顔に控えめなれど柔らかな膨らみが当たる。


「今日1日だけでも良かろ〜?妾も、アマテラスって耳元で呼んで貰いたいのじゃあ」

「許せぬ!そんなことされたら、あっという間に惚れてしまう!」


俺は言霊使いか何か?


落ち着いて欲しい、分身と言えど最高神にそんなことしたら俺は2度と大手を振って日の下を歩けなくなる。


「ウカミ…助けてくれません?」

「プリン一個でどうでしょう」

「乗った!」


へっ!プリン一個なら安いものだ!


両手に華と言えば聞こえは良いが、一歩間違えば黄泉送りでイザナミ様にご挨拶。


さぁ、不敵に微笑むウカミ!我が願いを聞き届けたまえ!


「コン、アマ様」

「「何じゃ?」」

「私も1日中弟くんにお姉ちゃんって呼ばれたいので、貸していただけませんか?」

「………もう、助からない」


死は救済ってことなのだろうか。この神様だけは何を考えているかわからない…!


「皆様、落ち着いてください」

「コトさんっ!」


ウカミが俺を後ろから抱き締めてきて、最早これまでと諦めかけた時。救いの手は舞い降りた。


「アマ様、貴女は今日1日で良いからアマテラスと呼ばれたいのですね?そしてあわよくば神使にしたいと」

「うむ」

「コン様、貴女は紳人さんは自分のものだから如何なる手を出されるのも許さないということですね?」

「その通りじゃ」

「ウカミ様、貴女は弟である紳人さんに1日お姉ちゃん扱いされたいのですね?」

「はい」


あれだけ混沌を極めていたこの場の整理を、さらりとやってのけるコトさん。


彼女自身の能力の高さに感心しているとコトさんは、一つ頷くと自身の胸を手に当ててこう言った。


「そして私は、紳人さんのお嫁さんになりたい」

「……言ってませんよね!?」


フッと花も恥じらうような可憐な笑顔で言うものだから、思考が一度真っ白になってしまう。


(コトさん何を!?)

(紳人さん…この『神隔世』、大変素晴らしいところなのですが娯楽と呼べるものが少なくて)

(……つまり)

(紳人さんを見ていると楽しいので是非拝見させてください♪)

(そんな殺生な!)


しっかり者の一面が強いけど、恋愛に関しては熱が入るところがあったり少しSなところがあったり。


神様といえど、血の通った存在なのだ。


こんなことでそれを確認するとは思わなかった。


四面楚歌になってしまったこの場から、どうにかして逃げ出すしかない。


或いは、此処で帰宅を切り出せばコンは味方に付けられるだろう!俺としてもコンの願いは叶えたいし。


「コン、そろそろ…」

「よし、皆の気持ちはよう分かった!なれば…今日のところは我が社に泊まると良い!時間はたっぷりある…思う存分決めようではないか」


立ち上がって両手を広げるアマ様と、ニコニコ顔のコトさん。


……ハメられた!そう気付いた時には、ウカミは兎も角コンは俺を抱く腕に力を込めつつハッキリと頷いてしまっていた。


俺も何か言いたかったが、抱き締められたコンの胸の感触にドキドキしてそれどころではなかった。

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