天照らす、昇る陽は③
「お、おおっ!そうじゃ!お主にはもう一つ礼をしておらんかった!」
「アマ様、それは…」
「皆まで言うな、分かっておる。じゃがこれは…寧ろ彼奴らがいない今でこそ言えることなのじゃ」
「2人がいない今…?」
慌てて思い出したように話題をすり替えるアマ様。お礼ならやはりコンたちも、と言おうとしたが手で制されてしまう。
そして気になる一言を挟み、俺の問いに頷きで答えると続きを話し始めた。
「コンが元は両親を持たぬ『逸れ神』であることは知っておるな?」
「はい。自我が薄れつつあったコンをウカミが保護し、守護神の役割を与えて存在を保ったんですよね」
その結果、俺の守護神となりあの事故が起きてそこから俺とコンの全てが始まったのだ。
もし、今もコンと気持ちがすれ違ったままであったなら。こんな風に思い出したり穏やかではいられなかっただろう。
「うむ、その通りじゃ。そして此処からが本題なのじゃが…実はな、名前を持たぬままであったならコンは一週間と待たず消滅していたのじゃ」
「なっ!?」
「故にコンがお主らの世に降りたと知るや否や、すぐにウカミを向かわせたのじゃ。……プリンを盗み食いされたと怒っておったから、飛んで行きおったよ」
ウカミが来たのには、そんな理由もあったのか…あの神は本当に隠し事が上手い。
まだ話していない秘密もあるのでは無いかと気になってきた。
「まぁそれも杞憂であったがな。紳人が神だとかそう言うのに拘らず、名前を呼ぶような奴で良かったと思っておる」
「俺としては、勝手に…それもあんなシンプルな名前で良かったかと不安でしたけどね」
「コンは喜んだのじゃろ?なれば気にするでない、沢山呼んでやるのが1番じゃ」
そっか…名無しというのもな、と思って僭越ながら名付けさせてもらったことがコンの助けになっていたのか。
「……良かった」
「うむ。故に…ありがとう、神守紳人よ。妾たち神を助けてくれたこと、誠に感謝する」
白い絹のような髪や狼の耳尾を揺らして頭を下げるアマ様。
だけど俺は内心ヒヤヒヤしながら、首が取れそうな勢いでかぶりを振る。
「あ、頭を上げてくださいアマ様!貴女に頭を下げられたら、俺はかえって立つ瀬が無くなってしまいます…!」
「ふふっ…じゃから言うておるではないか。妾の神使にならぬか、と」
「そういうことであれば、新人教育なら任せてください」
「おぉ、やってくれるかコトよ」
「えぇ。アマ様には任せられませんから」
「どういう意味じゃ!?」
いつの間にか初めて見た時の荘厳さを取り戻していたのに、一瞬にしてそれを霧散させる…ある意味神技かもしれない。
「さて…冗談は置いておきましょう」
「本当に冗談か…?」
「冗談ですよ。紳人さん、これはお礼だとか関係なく私とアマ様が気になっていることなのですが」
「はい、どうされました?」
頬を膨らませるアマ様に優しく微笑みかけてから、再度俺に向き直るコトさん。
そしてその笑顔から出たものとは思えない、とんでもない質問を口にした。
「コン様とは何処まで進展されたんですか?」
「……あー、すみません庭園が美しくてつい聞き逃しちゃいました。もう一度言っていただけますか?」
「ムフフなことはされたんですか?」
「言い直しでもっと直球になった!?」
コトさんはまともだと信じていたのに!俺は、俺はぁ!
「というかちょっと待ってください。アマ様も気にしてるんですかこれ?」
「うむぅ。ちょくちょくウカミから報告を受けておるのじゃが…彼奴、お主とコンの夜の話だけははぐらかすものでな」
無い話を脚色することは、さしものウカミも出来ないらしい。されても困るけど。
「……いや、それはですね。健全なる一男子高校生として、コンに安易に手を出すのは大切にしてないと思われそうというか」
「ヘタレじゃな」
「ヘタレですね」
どっかで見たよねこの展開。
泣きたくなるから此処らで止めない?恥ずかしさと居た堪れなさが凄いよ?
「ふぅむ…そうか、全然進んでおらんのかあ」
「折角恋人になれたのに、恋人らしい話の一つも無いなんて…」
「なんかごめんなさい…」
いつの間にか話題の矛先が俺に向けられている。
このままでは純情な男心が砕けてしまいそうだ、何とか話題を切り替えなければ。
「今度此方に来ることがあれば我が家からプリンを…」
「どうしましょうアマ様、現代の男子高校生は草食とは本当のようですよ」
「うぅむ…言うてしまえばコンは娘のようなもの、早く孫の顔を見たいものじゃが」
「駄目だ話聞いてない!」
どうあっても俺は肉食系男子にはなれないらしい。
男として抗議するべきなのかもしれない、が…この2
「いっそのこと、私たちでれんしゅうさせてあげてはどうでしょう?」
「おぉ、良い案じゃな。わしらが一肌脱いで紳人に男としての自信と技を身につけてもらうか」
「……ん?」
黙っていたら、結局話がおかしな方向に転がり始めた。どうしたら良いんだろうか?
「あの…それも冗談、ですよね?」
「くふふ、そう思うか」
「試してみますか…私とて神端くれ、極楽を与えて差し上げますよ」
2人の笑みがニヒルなものになる。
嫌の予感を感じて腰を浮かそうとしたが、それよりも早く2人に俺はその場で押し倒された。
「妾も…楽しませておくれよ?」
「早々にギブアップは、認めませんからね」
「ちょ、ちょっと待って…!」
アマ様もコトさんも衣装をはだけさせ、谷間と艶かしい肩を露出して迫り来る。
強く拒否して逃げ出したいが、彼女たちの女としての意地を傷付けてしまいかねない。
助けてコン、ウカミ…!と固く目を瞑って祈った。
「----お主は目を離せば、すぅぐ他の女に狙われておるなぁ…紳人?」
「英雄色を好む、というやつでしょうか…?火遊びは程々にですよ」
ハッと目を開けて、俺の服が軽く脱がされかけているのも構わず外を見る。
今度は祈りが通じたようだ、怒髪天を突くばかりに笑顔で仁王立ちのコンと少し困った様子のウカミがそこに立っていた。
「コン、ウカミ。良いところに来たのぉ、お主らも混ざるか?」
ニヤニヤ顔で話しかけるアマ様。この神様、コトさんと2人してコンたちが近付いているのを察知していたな…?
俺ってもしかしたら女難の相出てるかもしれない。生きて帰れたら、手相占いにでも行ってみよう…そう思うのだった。
今誰かに見てもらったら…色濃く死相が出てそうだけど。
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