チョコの味、甘くて苦く③
「今日は2年生合同の体育なんだ」
「あぁ、授業の内容自体はどちらも終わってるから折角ならってことらしい」
「何するのかねえ…」
掃除を終えた俺たちは、男子が2-A女子が2-Bで着替えることを通達される。
悟と寛氏の2人と他愛のない雑談をしながらパパッと着替えを済ませ、校庭へ。
どうやら俺たちはかなり早い方だったらしく、他の男子は数名女子は0という状況だった。
風が吹き体の体温が一気に持ってかれるような感覚に襲われ、ジャージ越しに二の腕を擦る。
「うぅ…人が密集したらそうでもなくなるから、早く皆来ないかな…」
「中心の人は良いけど、外の奴らは寒いよな〜」
「だから普段から男子が外側女子が内側なんだろうな」
3人して整列した時の光景を考える。
1クラスのみなら左右変わらないが、2クラスになると男子で女子を挟み込む隊列になるのだ。
「寒いのはあれだけど、皆がそれで少しでも暖かくなるならそれで良いよね」
皆で固まっているから、何だかんだで外側でも暖かいし。
「……」
「ん?悟、どうしたの?」
そぞろに男子も女子も集まり始める中、不意に悟からジトッとした視線が向けられる。
「お前って奴は…だからなのか?」
「えっ、と…ごめん。全く分からないんだけど…」
「へっ!何でもねえやい、この後を楽しみにしてやがれ!」
急に拗ねた悟は、皆が少しずつ列を作り始めたので大股歩きで加わっていった。
「…お腹空いてるのかな」
「いや、しっかり弁当食べてたぞアイツ…」
お腹が減ってるからご立腹、という訳でもないらしい。食べ損ねた訳ではなかったんだ。
「後で覚えてろって…どういうことだろう?」
「分からないが…俺たちも並ぼうぜ」
「ん、そうだね」
悟は列の後半、俺と寛氏は列の真ん中に入り集合を待つ。
女子も着替えが終わるタイミングだったらしく、あっという間に並び終えていく。
「紳人」
「あぁ、柑。どう?ジャージはムズムズしない?」
無事に着替えが終わったらしいコンが、俺の横に立った。藍色のジャージに身を包むコンというのも、新鮮で良い。
当然人間用なので尻尾穴などないのだが、コンやウカミは尻尾を透過できるらしく衣服の干渉を受けない。
そのため、耳や尻尾が見えない皆から尻尾穴の先の純白が見える…なんてハプニングは起こらないのである。これも良かった。
「うむ、サイズも丁度良い。ありがとの、紳人」
「どういたしまして。それじゃあコンは…前の方に並んでね」
先頭付近を指差す。全体的に小柄な印象の女子の中でも、コンの身長は控えめだ。
「また後でじゃ〜」
コンが、ひらひらと手を振って前に並んでいく。
先に並んでいた未子さんとニコニコ笑顔で話すのを眺めていると、寛氏が俺の背後から訊ねた。
「紳人…神守とは従兄妹だったよな?」
「うん、そうだよ」
「今の会話だと、恋人って感じだったんだが…」
「---い、一緒に住んでるからね。つい距離感が近くなるんだよ」
「ふぅん…そういうもんかね?」
図星を突かれても声が上擦らなかったのは、自分で自分を褒めてあげたいレベルだ。
確か寛氏にも(真っ当な)お姉さんが居たはず、思い当たる節でもあったのかそれ以上は聞いてこない。
ホッと一安心である。
「よぉしお前たち!今日の授業だが…ドッジボール大会しようじゃないか」
『うおおおおおお!!』
何だ、この男子の盛り上がりよう。童心に帰りたい時期だったのかな…。
「チームを4人1組で組んでくれ。1人は必ず隣のクラスを入れること!」
「なるほどね、面白そうだ。柑、一緒に…」
「女子!柑さんと組んでくれ!」
「オッケー!」
「さぁ紳人!お前は俺たちと仲良くしようぜ〜!」
「えっ何急に怖いよ?あっちょっと!柑〜!」
俺は気持ち悪いほどに笑顔の悟たち男子に引き摺られ、コンからどんどん離されていく。
「……紳人と同じチームが良かったのじゃ」
「う〜ん、男子の皆どうしたんだろうね?」
そんな俺に、コンと未子さんの声が届くはずもなかった。
〜〜〜〜〜
結局、俺は悟、寛氏、そして隣のクラスから明を入れた4人で特攻○郎Aチームを結成させられた。
コンは未子さんと同じチームになったらしい。寂しそうに此方を見るコンに、俺も似たような気持ちで見つめ返すことしかできない。
「はい、それでは皆さん班に分かれましたね?では…トーナメント表が、此方です!」
ウカミが発表したトーナメント表では、俺たちは最後の組だった。暫くは来ないだろう。
というか…コンと同じチームじゃなかったというだけで、かなりやる気が怪しくなっている。
「……なぁ皆!賭けをしようぜ!」
やる気がガタ落ちする俺が寛氏と明に肩ポンで慰められている時、突然悟がこんなことを言い出した。
「一位になったチームは…倒したチームの誰かからチョコを貰えるってのはどうだ!?」
『異議無しィ!!』
「……うん?」
間髪入れずに承諾する愚かな男子どもに、思わず俺は首を捻る。
「何だよ紳人、バレンタインのチョコが貰えるんだぜ?嬉しくないのか?」
「いやまあ、嬉しいけど…」
別に今日貰わなくても、明日になればコンとウカミから手作りを貰えるからなあ…。
とは言えないので、言葉を濁して微苦笑する。
すると、悟はまるでそれも予期していたかのようにフッと笑った。
「わかった、なら条件を変えよう。一位になったチームは!
柑さんと宇賀御先生から手作りのチョコを貰えるということにしようぜぇ!!」
『異議無しィィィィ!!』
「大アリだァァ!!」
流石に俺もエンジンをフルスロットルにして叫ばざるを得ない。何を言ってるんだこの人たちは!?
「何だよ紳人、あの2人から…」
「いやそれはさっきやったから!じゃなくて、そんな勝手に…2人も困るでしょ?」
「私は面白そうですので、全然良いですよ〜♪」
「姉さん!?」
ゆらりと一度大きく尻尾を揺らして頰に手を当てるウカミ。あれは間違いなく楽しんでいる表情だ。
「で、でもほら柑も…ね?」
「ふぅむ…わしは構わぬよ」
「柑まで!」
「なぁに、安心せい。要はお主が1位になれば良いのじゃ。信じておるぞ、紳人」
「……分かった」
コンの俺を信じて疑わない、真っ直ぐな瞳に俺も覚悟を決めた。
何としてでも1位になり…2人のチョコは、俺が守る!
なぁに、寛氏は彼女が居るから受け取るのは気まずいだろうし明も家族から貰うはず。
つまり……!
((俺の敵は、悟(紳人)ただ1人…!!))
仲間内であれば寧ろ好都合。パスするふりしてぶつけまくってダウンさせてしまえば良い。
仲間内なのに激しく火花を散らす俺と悟に、寛氏と明が小さくため息を漏らすのだった。
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