今日の神、明日のプリン②
「両親が、居ない…?」
神妙な面持ちのウカミから明かされた事実に驚愕するあまり、口に出して反芻することしか出来なかった。
両親の存在しない神、そんな神も居たのか。
「はい。貴方のいるこの人間の世界ではあり得ないことですが、私たち神が住む『神隔世』には稀に生じるのです」
----神と人の明確な違いは、≪神気≫という力を持つか否か。神隔世にはそれが満ちており、如何様にも形を変えます。清らかな心に触れれば正しく、邪な心に触れれば邪に。
そんな不安定なもの故に、其処から新たな神が生まれる訳ですね。
それらを『逸れ神』と呼び、コンはその逸れ神に属しています。誰かに産んでもらった訳でもない、誰かに望まれた訳でも忌み嫌われた訳でもない。ただ生まれたコンは、役目を持たず神隔世を放浪としていました。
どれだけの年月、彷徨っていたのかは私でも分かりません。ただ、コンと私が出会った時自身の存在意義が無いこの子は消えてしまいそうだったのは確かです。
そこで、守護神となることを勧めました。
そうすることでコンも必要とされ自分の使命を持ち、自我を失うこともないと考えて。
結果コンは守護神となり、過度な怪我や不幸に見舞われないよう加護を与える役割を得たのです。
その相手が…神守紳人、貴方ですよ----
「……ただ一つだけ、未熟故に不慮の事故が起きてしまいましたが」
そう一言付け加え、コンの昔語りは締め括られた。
コンが名前を持たない理由は、神様に成り立てだからというのは間違いではないだろう。しかし、正しい訳でもなかった。
元から持っていなかったんだ。重い真実に、思わず一度目を伏せる。けれど閉じてはいない、閉じたくはなかった。
コンから目を背ける真似をするようで…
そんなこと、俺には出来ないから。
「たった一度のミス…きっと、あのことを言ってるのでしょうね。けれどあれは過ぎたことだし、コンに罪も責任も無い」
「神守さん…」
「けれど、どうしても一つ聞いておかなければなりません」
己の乗り越えつつある過去なんかより、よっぽど気になることが俺にはある。それを聞かずして、今夜は眠れない。
意を決した俺を察したようで、スッとウカミが身構える。流石は神様の保護者を名乗る神様だ、その相手に…臆面もなく問いかけた。
「……コンがプリン好きなのって、どうしてですか?」
「……はい?」
ここに来て初めて、ウカミが素っ頓狂な声を上げてポカンとした顔になった。
「……本当に、それが何よりも私に聞きたいことなのですか?」
そして白銀の耳と尻尾をピタリと動きを止めてまで、念押しで確認を問われてしまう。
だって、気になったんだもん…。
「それは…私がプリンが好きで、よく食べさせていたらいつの間にか彼女も好むように…」
「そして、こっそり貴女のプリンを盗み食いし怒りを買って俺のところへ逃げてきたと」
「…もしかしたら、不慮の事故は2つだったかもしれません」
コンのうっかりを不慮の事故扱いしてくれるのは、優しさなのか憐れみなのか。
はぁ…とため息をついたウカミとパチリと目が合った。その表情が自分の苦笑と全く同じだったので、思わずぷっと吹き出しあはは…と笑い出してしまう。
最初は打ち解けられるか不安だったけれど、この分なら問題はなさそうだ。
「ウカミ様」
「はい、何でしょう?」
「今度プリン買ってきましょうか」
ガタッ、とウカミ様が腰を浮かせる。その表情がこの上なくギラついているものだから、無意識の内に口を閉じる。
「……是非お願いします」
「あっ、でも俺その神隔世にプリン持って行くこと出来ないですね」
「私も暫く此方に居ります!」
プリン好き過ぎじゃない?と言うか待って欲しい、まさか…!
「あの…不躾ですが、ご滞在はどちらの方に…」
「何を言うのです、この家があるではありませんか」
「ですよねぇ…」
どうやら、今度こそ俺は床で寝ることになりそうである。今週末、布団買いに行くか…ウカミに気付かれないようにため息をつくフリだけをして寝室へと誘うのだった。
〜〜〜〜〜
「まぁ、眠れる訳ないよね…」
コンとウカミが同じ布団で横になり其々に冬用の毛布を渡した結果、俺はリビングの小さなソファで夏用の薄い毛布で眠ろうとする。
しかしこの冬場にそんな毛布一枚で眠れる筈もなく、やれやれと頭を振りながら静かにベランダに出た。
眠れない夜にはこうして外に出てしんとした空気に包まれていると、ゆっくりと睡魔が湧き上がってくるのだ。
「うぅ、寒い…けどこれが良いんだよね」
独り言を呟きながら、これ冬眠と同じか?と思ったけれどこの際気にしないでおこう。
「コンとウカミ、か…」
何だかんだで2人が仲良いことは、見ていてもよく分かる。慌てて飛び出してきて謝ることも出来てなかったから、コンも心残りだったはず。
仲直りも、あっという間に出来る。自分の知り合いが此方に来たことで、不安も少なくなるだろう。
心が落ち着いていくのを感じながら、明日から始まる賑やかな生活に不安と期待が入り混じった気持ちになった。
「……くしゅんっ!」
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