怖い話は好きじゃないけど(仮)

@masumasu_no_gohatten

第1話 猫のポット

怖い話は得意ではない。

すぐトイレ行けなくなるタイプだし、なんでか知らないけど昔からJホラー映画とか観ると、作品内で起きた怪現象が自分の身にも起きがち。これは私に超能力かなんかあるのだと思う。イメージ力で現実に干渉……具体的には子供の頃に「リング」をテレビ放送で初めて観たとき、観終わった瞬間に家の電話が鳴った。出ると無言電話だった。

これは単にクラスメイトとかが悪ふざけした可能性が高い。この頃はクラスの連絡網もあるし電話番号はまだ相手に表示されなかったから、親しくないクラスメイトも電話かけ放題。

次は何年か後で、「呪怨」のパイロット版?を知り合いの付き合いでオールナイトで観に行った帰り。最寄り駅で電車を降りた私は朝の眩しい光の中で、まだくすぶる恐怖心を和ませようとMDウォークマンでBOATという当時人気のバンドの曲をかけた。すると、明るい曲が突然音飛びし始め、同じところを繰り返した。今までそんなことは一度もなかったし、この後もなかった。映画を観たことある人は知ってるかもだが、「呪怨」にもそっくりなシーンがある。明るい日差しの差し込む部屋で、理由のない恐怖を感じた若い女の子が明るい音楽をかけると、途中から音飛びして、場面は怖いムードに転換する。ギャー。


そんなかんじで、私は謎のパワーがあるっぽいのでなるべく怖い話は遠ざけている。私がそれをリアルに思えば、それは私のリアルになるからだ。

病は気から、と同じだ。イメージは現実を動かす。

昔のSF小説が未来である現在を正確に予言したのではなく、強い未来のイメージを与えられた当時の人々が今の時代を作ったのだ。

私達は再現する能力がある。

言葉で、絵で、音楽で、踊りで、映像で、誰かが見た夢を伝播させて現実を一緒に作れる。

I Have a Dream!そう高らかに訴えて理想を具体化させることが出来る。便利なような、恐ろしいような。

だが私は、「誰か一人の見た幻が多くの人間に拡散する」ということは無いと思っている。人間は集団動物であり、個々人の意志や感情とは別に、集団で共有している感覚があると思っている。

たとえばジョン・レノンが作った名曲だって、結局は当時の同時代の人間の中に共有されていたものを、彼がうまく取り出す才能があった、ということだと思う。

だからディストピアSFを書いてしまった作家は責任を感じなくてもいいし、恐ろしい兵器になりうる科学的発見をした科学者も、読んだ人に怪異が伝播する系ホラー小説の人も、基本的にその人一人が責任を負うことではないと思っている。

必ず同時代の誰かが同じことをする。

飛行機も電池も電話も同じアイデアはだいたい同じ時期に発生したというし、人類は大きくひとつの生き物なのだろう。


さて、そういう言い訳もしたところで、私の知ってる怖い話をひとつして終わろう。

その話のことは半分忘れてたけど、今でもその話に関わるモチーフを見るたびにハッと思い出してしまう。


それは、父が教師をしていたとき、卒業した女生徒がヤバいことになって大変だった、と別の卒業生から聞いた、という話で、私が父から聞いた話だ。

その女生徒さんは、卒業旅行でアジアのどこかの国に海外旅行をした。そして雑貨屋で見かけた、猫の形をした陶器のポットを気に入り、お土産で買って帰った。

ところが、帰国してから彼女は日に日に様子がおかしくなってしまった。若い女性が精神的に不安定になる理由なんて無限にあるので最初は周りもそんな大騒ぎすることもなかったらしいが、そのうち家の中で暴れたり叫んだりと危険な状態に陥ったので病院に入れた。

しかし投薬しても状態はおさまらず、ベッドに拘束する事態に。(実はこのへんはうろ覚えだけど、なんかもう大変な状態で「えー!社会復帰は無理じゃん」って印象が残ってる。)

医師たちも原因がわからないようだし、困った親御さんらはほうぼうに相談したのだろう、誰かから霊能者を紹介されたらしい。藁にもすがる思いでその霊能者に会いに行くと、その霊能者は親御さんらを見るなり「うわ!大きな猫が……!娘さんは最近、猫にまつわるものを手に入れたはずです、それを処分してください」とすぐに言ったと。

帰宅し、彼女が部屋に飾っていたお土産の猫のポットをすぐ処分すると、容態はみるみる良くなり、二、三日でケロッと元通りになったそう。


なんじゃそりゃ。そんなヤバいものなら売ってた雑貨屋は何故平気だったんだ、とか色々思うが、リアルな怪談はというのはこんなふうに設定が甘く、ツッコミどころが多く、ホラー話としては大して怖くはないけど。

が、現実問題としてはかなり怖い。(何ヶ月もせん妄状態だったらしいし。)


オカルト的な意味で本当に怖い話というのはそんなに無いものだが、理由と意味のわからない「変な話」は沢山ある。理由付けが可能だったり、物語として成立しないからわざわざ語られないだけだ。


結局、私は今のところ人生で1番怖かったのは、友達のストーカーが私の家まで電話して脅迫してきたことだな。

次点がシフト入れてない日にかかってくるバイト先の男の人からのダメ出し電話(「アレどこ!?」とか怒ってくる。店長に聞けや。)

あとバイトしてたスナックで、遠回しに断ってるのに何度も直電で飲みに誘ってくる常連客(留守電が何度も入る…)と、やはり直電で勧誘してくる日本生命の保険レディ。

「今から自殺する」って泣きながらお別れを言ってくる友達からの電話、などなど…

なので電話ってなんとなく怖い、今でも。


あと集合時間を過ぎてる頃に目が覚める寝坊もゾッとしますね。たまに夢に見ます。


おわり

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