閉鎖幽隔都市『東京』物語

葉桜冷

prologue

 閉鎖幽隔都市、東京。

 絶えずスモークを炊き続けているその薄暗い都市を、人はそう呼ぶ。

 大都市の周囲を城壁が囲い、出入り口は蒸気機関車しか受け付けていない。貨物にしろ乗客にしろ、大きな怪物の口のなかに吸い込まれるように列車は次次と出入りを繰り返している。

 少女は揺れる機関車の中で改めて手紙を取り出した。

 差出人の名はアーサー・チューズデイ。

 少女――白騎彗透シロキ・エスにとっては因縁浅からぬ人物である。

 車窓から見えるのは腹曇りの空とどこまでも広がる荒れた大地のみ。

『東京』の周辺地帯は概ねこんなものだ。いつかも思ったことだけれど、東京内部と外部での発展具合の違いはなかなかどうしてひどいものだと彼女は思う。


『東京』に戻ってくるのは数年ぶりだった。


 師と仰ぐ人物からしばらく東京から離れろと言われていたのもあったが、単純にそれを赦してくれる人間が自他ともにいなかったのだ。

 苦い思い出の多い都市だ。特に、十年前のあの事件はずっと自分の中に疼き続けている。

 それでも再びエスはこの都市に戻ってきた、



 灰色のソラ。

 蒸気機関車は駅のホームへ飲み込まれていく。

 エスは手紙を見やる。

 自分をここに呼び出した手紙。この紙切れに対する感情は複雑なものがあるが、それでも無視できるものではなかった。


 閉鎖幽隔都市、東京。

 灰色のソラの下の灰色の街。

 痛みとか嘆きとか不条理とかを覆い隠すように在る街。


 汽車を降りる。

 すらりとした長い脚がカツ、と石畳を鳴らした。

 

 誘われるままに、彼女はこの魔都へと再び足を踏み入れることとなった。

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