盛大に振られた俺は、何故か美少女姉妹の推しにされていた。

もんすたー

第1話 推しの話

「久しぶりのぼっち飯か……」


 階段の窓から眩しい日差しが差し込む中、俺、司波伊織(しばいおり)は悲しげな表情をしながら一人で菓子パンを頬張っていた。


「昨日のことを思い出したら食欲がなくなる……流石にアレはないよな……」


 気分が落ち込んでいるのは、昨日のアレのせいだ。

 高校2年の始まりから、夏休みを終えて一週間ほどたった今まで付き合っていた彼女に振られたことだ。


「もう無理! 付き合えない!」


 廊下で不特定多数の人が居る中、大声で言われた別れの言葉。

 ……振られる理由なんて分かるわけもなく、俺はこうして落ち込んでいるわけだ。


 昨日まで彼女だった戸松佳苗(とまつかなえ)は、堂々と目立ちはしないものの、可愛いと言われている。


 肩まで伸びた黒髪に、スカートの丈は少し短めなおしとやかで可愛らしい女子。

 昨日まで彼女だったのに……もう違う。


「はぁ……何もしてないんだけどな」


 思い当たる節はない。

 あるとすれば、他の女子より大きい胸を佳苗が持っているから、それに誘惑されて性欲が表に少しだけ出てしまったくらいだ。


 ……待てよこれが一番の原因かもしれないな。


 でも待て。性欲が出ていたのは俺だけではない。佳苗も密室になるとすぐに俺に密着してきて「シよ」などと誘ってきていた。


 うん。振られた原因はこれではない。

 まぁ佳苗と付き合えたことで、楽しい夏休みを謳歌できたんだ。


 青春なんて夢物語と思っていた俺に少しでも夢を見せてくれたことには感謝している。


 だとしてもあの振り方はないよな……

 ため息を吐きながら肩をうずくめている俺であったが、


「ほらほら、あそこに居る人!」


「ちょっと! 声が大きいって!」


 下の踊り場から、何やら女子2人の声が聞こえてきた。


「えぇめっちゃかっこいいんだけどぉ」


「私らの推しやばぁ」


 どうやら推しの話をしているようだ。


 お昼休みだから教室ででも話してればいいのに、なんでこんな辺鄙なところにわざわざ来るのだろうか。


 不思議に思った俺は、気づかれないようにひょいと顔を出してみる。

 掃除用具入れの影に隠れながらヒソヒソと話す女子2人の姿がそこにはあった。


 乙女坂緡音(おとめざかみんと)と空乃(あの)。

 学校で人気の美少女姉妹。


 緡音の方は一個上の高校3年。受験を早く終えたからか、髪は金髪に染めており、ボブショートの髪型が、童顔によく似合っている。


 空乃は俺と同じクラス。カールのかかったセミロングの黒髪に、短いスカートとルーズソックスを装備した今ドキJK。

 話すことはあるけど深い仲ではない。


 そんな美少女姉妹こんなところで推しの話をしてるとは……何か他人には聞かれたくないマニアックな趣味なのだろうか。


「最近彼女と別れたらしいから今がお近づきになるチャンスだって」


「でも私、話しかけたら死んじゃうってぇ」


「早くしないと別の女子に取られちゃうかもしれないんだよ⁉」


「で、でもぉ……」


「大丈夫! 私クラスでたまに話すけどいい人だから!」


「そんなの見た目から滲み出てるから分かるっつーの! ただ恥ずかしいだけだって……」


 ……ん? これって推しの話をしてるんだよな?

 妙に親近感が湧く人の話をしている気がする。ていうか空乃とクラスでたまに話す最近彼女と別れた人って……俺のことだよな……


 もしかしてだけど……俺の話をしている?


 俺、いつの間にかこの美少女姉妹の推しにされていた?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る