ロリキュートな魔王様は人気配信者になって世界征服を目指すようです

@nizinopapa

第1話 マオリンチャンネルへようこそ

『――――どうだカメラの調子は? ってなに、もう撮っておるだと⁉︎ ば、バカモノッ! それを早く言わぬかッ‼︎ あー、えっとなんだっけ…………そ、そうだ。初めまして皆の者! マオリンチャンネルへようこそ。わしは魔王マオ・ロード・マーゾック、この魔界の統治者だ。気軽にマオリンと呼ぶことを許す』


 わしは画面に映し出された少女を食い入るように見つめていた。


 腰まで伸びた美しい銀の髪。ルビーのように真っ赤な瞳。華奢な美しい曲線美を魅せる黒のドレス。

 誰がどう見ても美しく愛らしくキュートな少女が、初めての動画撮影にぎこちなく、だが前もって練習していたセリフを喋っている。


 ハッキリ言おう。可愛いと。


『それでは最初にこのチャンネルの趣旨――というか、何を目指しているかを簡潔に述べさせてもらう。――――ズバリ! 世界征服だ! と言っても魔力や暴力でそれを成すつもりはない。10年前に勇者と交わした終戦の条約、わしら魔族はそれに従い、あれ以来人間達の生活を一切脅かしておらぬ。だから魔界の観光地と、わしの愛らしさで世界を骨抜きにするため、わしはこのチャンネルを開設したのだ!』


(うーん、ちょっと堅苦しくなってしまったな。だがこれは必要な挨拶だ。仕方あるまい)


『ついてはこのチャンネルを通じ、魔界の良いところをじゃんじゃん紹介していくことにしたのだ。というわけで、皆の者よろしくな! チャンネル登録してくれた者には【マオリンの配下】の称号を授けよう!』


(…………くひひひ。流石わしだ。この動画を投稿して3日。既に進んで配下になった人間は5000人。これなら全人類を配下にする日もそう遠くないだろう)


 コメント一覧をクリックしてみる。コメント数2301件。1本目でこのコメント数はやはり魔王――いや、このウィーチューブの未来の覇者と呼べるだろう。


「……なになに? マオリン可愛い? 言われなくとも自覚しておる。魔界に引っ越したい? もちろん歓迎だ。…………ほんとにこのロリっ娘が魔王だったのか? こいつは何を言っておる」


 目に入ったコメントに一つ一つ返信していく。地道だがこういう作業は大切だ。だがそれにしてはコメントが多すぎるのも事実だ。


「良かったら僕がお手伝いしましょうか?」

「ひゃわっ⁉︎」


 突然後ろから声をかけられた。振り返ると、この動画のカメラマンであるわしの腹心が、いつも通り微笑んで立っていた。


「驚かせてしまい申し訳ありません。何度かノックしたんですが反応がなかったもので。あ、ミルクティーを淹れてきました。どうぞ」


 わしのモニターの前にカチャリと置かれたティーカップに視線を下げる。まだ湯気の昇るアールグレイが、甘く優雅な香りを漂わせていた。


「うむ、礼を言うぞアルク。だがコメ返しはわしの大事な仕事だ。こればかりはいくらお前でも任せるわけにはいかん」

「相変わらず真面目ですね魔王様は。ですが無理をなさらないよう。貴方は大事な魔界の王なんですから」

「…………うむ」


 視線を上げ、そこにいる少年――アルクを眺める。

 迫害されてきた吸血鬼の最後の1人。美しい金の髪と瞳。中性的で彫像のように整った顔立ち。白いシャツと漆黒の執事服を纏ったスラリとした体。人間でいえば10代半ばほどのこの少年こそが、わしが認めた唯一の腹心だ。

 

「――ところで、そのコメント全てに返信するのは些か時間がかかりましょう。それなら【分身魔法】で御自分を増やされてはいかがですか?」

「それはわしも思ったが、パソコンもスマホも数が足りんのだ。なんせソレらを買おうにも、人間の使う貨幣が足りぬ。当面の目標は資金の調達だな」

「あ、それなら問題ありません。そんなこともあろうかとスマホとパソコンを20台ずつ仕入れてあります」


 ……耳を疑った。アルクがわしに嘘をついたことはないが、流石にそんな芸当できるとは信じられなかったのだ。


「――――まさか貴様! 人間から奪って……」

「僕個人のチャンネル登録者が100万人を突破したのでその収入で購入しました。よろしければお使いください」

「えっ…………えっ?」

「なにか?」

「……チャンネル名は?」

「魔王の腹心チャンネルです」

「…………少し待て」


 キーボードをカタカタ鳴らす。すぐにウィーチューブの検索ページから今聞いたチャンネル名を検索する。


「………………おいアルク」


 そこに表示されたチャンネルは登録者101万人。投稿動画のサムネには、いつ撮ったのか分からないわしの寝顔やアルクの顔。タイトルは【魔王様の寝顔をバレずに撮影してみた】や【魔王様の食事に激辛ドッキリしてみた】などが並んでいる。


「はい」


 悪びれる様子は一切ない。むしろなぜわしの声が震えているかまるで分かっていないようだ。


「……視聴者の反応は?」

「見ての通りすごぶる良好。マオリンチャンネルの宣伝も任せてください」

「………………頼んだ」


 

 魔王のわしが初めて屈した瞬間だった――――。



 チャンネル登録、高評価よろしくマオ╰(*´︶`*)╯♡

 

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