想い出もろもろ……
山井縫
第1話 発行部数600万部のあの雑誌に私の○○が〇った話。
私は東京の西の外れに生まれ育った。
そして子供の頃。長い休みに入ると鎌倉の七里ガ浜で家族数日過ごすことがあった。
今では某バスケットアニメの聖地としても有名になった近辺。
そこには両親の友人が住んでいた。庭付きの二階建て部屋も沢山ある大きな家で他にも家族がやって来てワイワイ騒ぐ。夏休みなどはキャンプに行ったりしたこともある。
連れられてきた子供の歳もバラバラだけど皆小学生くらいで一、二歳の差で仲良くやっていたのだが。その中でも九州の熊本からやってきていたR君という男の子は皆より少し歳が上で離れていて皆の面倒をよく見てくれていた。
それから数年が経ち、私は高校生になった。その頃には件の家にもあまり行かなくなっていたのだが。
R君が高校を卒業して東京に出てくることになったのだ。役者を目指して某劇団に入ったらしい。そして、同じ熊本から一緒に漫画家を目指して上京した友人とルームシェアを始めたとのことだった。
同時に彼は演劇活動と並行してアルバイトがてら私の両親がやっている稼業の手伝いをやりにきてくれていた。そんな訳で久しぶりに旧交を温める事になったのだ。
家に泊まりに来たりすることもありその時にお互いの近況を話したりもしたのがだ、その時に「一緒に上京した友達はジャンプに持ち込みに行っているんだ」と聞かされた。
当時の週刊少年ジャンプと言えばまだまだ勢いは衰えておらず600万部を超える部数を誇っている時期。ドラゴンボール、ろくでなしブルース、ジョジョの奇妙な冒険、るろうに剣心、地獄先生ぬ~べ~、こち亀等々人気作アニメ化作目白押しの大人気雑誌。
そこで連載を勝ち取る事は並々ならないことだ。
実際、編集さんには直に見て貰ってはいるが未だ連載には至っていないとの事。
「ジャンプに持ち込みか。凄いね、通ると良いね」と言いながらも中々難しいだろうなと想っていたのだが……。
その友人は何度かある漫画家さんのアシスタントなどもしながら持ち込みを経てついに、連載を勝ち取ったときかされたのだ。
その漫画家さんのペンネームは【うすた京介】
そのうすたさんのギャグマンガ「セクシーコマンドーすごいよ!!マサルさん」がジャンプに載るという。
実際にお会いしたことはないけれど、友人の友人。以前から話を聞かされていた人の漫画がジャンプで始まるという事には流石に少し感動した。
そして、その内容は超絶に面白かった。いや、それどころか「マサルさん」は後のギャグ漫画にも大きく影響を与えたと言われるくらいの大傑作として知られることになった。
と、ここまで読んで頂いた読者は「何だこの内容は。自慢か。いや、自慢にもならない自慢じゃねえか」と想われるかもしれない。
が、安心して欲しい。真の自慢はここから始まるのだ。
うすたさんは売れっ子漫画家としてデビューし程なくしてR君とは同居を解消した。その後の事。
ある日、私と私の弟、それから昔七里ガ浜で遊んだ別の友人T君と三人でR君の住むアパートの部屋に遊びにいくことになった。
夜も更けた頃R君が突然言った。
「うすたの所に電話かけてみようか」
もう大分遅い時間だが、仕事中なら起きている筈だという。
「いいね、かけてかけて」
と深夜の若造のノリですぐに決行。
電話を掛けると程なくしてうすたさんは出てくれた。
三人が代わる代わる少しの時間だが言葉を交わした。
その時に、誰が言いだしたかは忘れたがこんな言葉がうすたさんに投げかけられたのだ。
「漫画の中にウチ等の名前出してもらうとか出来ませんか」
考えてみれば図々しいお願いだが、深夜のハイになっているノリで放たれた言葉だったのだと想う。それに対する返事は。
「……いいよ」
うすたさんは意外にあっさりと答えてくれた。
「本当ですか? やったー」
と三人共に大興奮。
それから数週間後。R君から次の号に載るらしいよと教えて貰いドキドキしながらその週のジャンプのページを捲ったら……。
載ってた。その週の「すごいよマサルさん」扉絵。セクシーコマンドー部の部活顧問トレパンが壁にもたれかかっている。その壁の落書きの一部に三人の名前がローマ字で書きこまれている。はっきりと読み取れる大きさだ。
後に単行本になった物を買って持っているがそれにもバッチリ残っている。
あのジャンプ。発行部数600万部を誇るジャンプに私の名前が刻まれたのである!
一生ものの想いでと言っても過言ではない。
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