第31話 素敵な淑女様(1)

 休憩時間中、立ち見の女性達はゾロゾロとトイレに向かったので、シルバー達も少し席を外すことにした。


 もちろんトイレ目的ではない。

 中身が男なので女子トイレに入ることはできず、かと言って男子トイレに入るのも見つかったら不味い。正体がバレたら袋叩きにあう。


 休み時間もあの場所に立っていたら、不審に思われそうなので会場をブラブラして時間を潰すのだ。

 同じことを考えたのか、ジャスパーとスレートも同じ行動をしている。

 自然と四人は集まる形になり、奇しくも学園でコランダム女子が固まっている光景の再現になった。


「アレキサンダー王子ですよね……?」


 一番小柄なスレートが、アレキサンダーに話し掛けた。

 男子の平均身長くらいなので、女子にしては背が高い扱いされるが、彼は特に猫背にならなくても良さそうだ。


「そうだ。お前は留学生の……」

「スレートです。平民なので姓はありません。……もしかして平民の僕が、王族に話しかけるのはダメでしたか?」

「別に構わん。俺はプライベートで町に遊びに行くし、住民達とも普通に話す」


 ルミと町デートしてただけなんだけどな。


「へえ……」

「王族なのに飾らないというか、フットワークが軽いというか……珍しいですね」


 普段のアレキサンダーの尊大な様子を見ているからか、軽く驚いた様子のスレートと、感心した様子のジャスパー。


 軽いのは頭なんだよな。


「アレキサンダー殿下と一緒にいるという事は、お隣はスターリング侯爵子息?」

「ああ。君はジャスパーだな」

「よく分かりましたね」

「君の瞳の色は特徴的だからな」

「……そうですか」


 一瞬顔を顰めたジャスパーだったが、それは本当に瞬時のことだったので誰も気が付かなかった。


「お二人はどうしてここに?」

「ル……最近、女生徒の様子がおかしいのが気になってな。てっきり、いかがわしい集まりかと思ったが……」


 いかがわしくはないが、恐ろしい魔女集会だ。

 確かにコレを王妃に報告するのは憚られる。

 NPC化した連中は、サロンの実態が外に漏れることによって、お取り潰しになるのを避けたかったのだろう。


「僕達もです。女子達が急に活動的になったので、原因を探るために来ました」

「国籍関係なく盛り上がるのは結構ですが、声高に『クズ男を駆逐してやる!』『女の力を思い知れ!』と叫んでいるのを見ると、男の俺としては複雑ですね……」


 スレートとジャスパーが、苦笑いしながら話す。

 会場にはコランダムファッションの女子がチラホラ混じっていた。

 ジェンマ国のドレスを着ているが、おそらくコランダム人なのだろうと思われる容姿の女子もいる。


「ここで会ったのも何かの縁です。もしよろしければ今度、殿下達と一緒に城下町に遊びに行きたいです」

「機会があればな」

「やった!」


 アレキサンダーとしては社交辞令のつもりだったが、ジャスパーは目元だけでもそうと分かるほど破顔した。

 コランダムの男性は喜怒哀楽の表現がハッキリしている。こうも嬉しそうにされれば、悪い気はしない。


「……今度遊びに行くことがあれば、声掛けてやる」

「はい! 俺は親が手配した護衛が沢山いるので、下町でもどこでも行けます!」

「よっぽど深い場所に行かない限り、護衛は二人も居れば充分だぞ」

「大所帯は迷惑でしょうか?」

「大人数だと、店に入るのも予約しないと迷惑になるからな……」


 妙なところで庶民的というか、手慣れているアレキサンダー。お前ちゃんと予約とか知ってるんだな。

 店には配慮できるのに、なぜ婚約者には配慮できないんだ……


「でも連れて行かないと、外出許可がおりないんです」

「お前の親が許すギリギリの人数にして、コッチの護衛の数減らせばなんとかなるか……」


 丁度その時、休憩の終了を知らせる鈴の音が響いたので、男達の集いはそのままお開きになった。

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