【BL】果ての地のうつくしい千年

千艸(ちぐさ)

序章 幼い日

プロローグ

 忘れもしません、あれは私が百六十二歳の年の白夜の頃でした。

 幼児期を脱し、舌足らずで魔法の詠唱を失敗することもなくなった私は、神々の住まう十字塔に招かれました。

 そこで、あの方にお会いしたのです。


 あの方は、世界に固定された管理者です。

 神々の中で主神と呼ばれていますが、他の神々とは違い、大人の姿になれないそうです。

 私達の一族から逸脱した、不老不死。

 母が主神様のことをそう評しておりました。



 武神と風神の間に生まれた子、すなわち私の顔を見に、主神様は十字塔の下層まで降りてこられました。

 子供の姿とはいえ、さすがに私よりも大きいあの方は、小さい私の顔を見るなり、無表情のまま


「……そうか。やはり、よく似ている。」


 と言いました。

 父にでしょうか、母にでしょうか。

 父も母も大人なのに、似ているとは不思議な表現です。

 似るなら見た目の年齢の近い主神様にの方が良かったな、と思いました。

 同じ一族の証である、黒髪黒目のお兄さん。

 左手が少し不自由なのか、短い髪は右側に寄せられています。

 ゆったりと足元まである秘色のビシュトの胸元には水色に近い青の宝玉。

 それを支えるために、青い滑らかな生地の襟飾りを着けています。

 主神様はそれから、私の方に近づいてきて、そっと私の頭を撫でてくれました。


「ゆっくり、大きくなりなさい。」


 それは祝福の言葉だったのだと思います。

 しかしながら、それでかえってはっきりと、

 私は、

 私も、

 主神様とは違う存在なのだと、幼心に思い知ってしまいました。

 

「はい。必ず主神様のお役に立つ神になります。」


 私はまっすぐに主神様のお顔を見て返事をしました。

 その時確かに、主神様は私に微笑んでくださったのです。

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