第13話 作戦の結果は


『住民番号2653と2482じゃないか。どうしたんだぃ、こんなところで。まさか――お散歩してて迷い込んだとか、言うんじゃないだろうね!?』


 刹那、感じる異変――。


「に、逃げろ久遠!!」


 しかし間に合うはずもなく。


 ウィー、ガシャッ、ガシャンッ!


『捕まえたぁ! さて、2653、2482、状況を説明してもらおうか』


 廊下の両サイドの壁から巨大なアームが伸びてきて、俺と久遠の体をひょいと掴んで持ち上げた。胴体を大きな人の手のような形の機械に掴まれ、妙に気持ちが悪い。


「……くっそ、捕まった」


 久遠の舌打ちが横から聞こえた。俺も巨大アームを忌々しく思いながら足をバタバタと動かしてみる。しかし人間と機械の力では、その差ゆえに勝てるはずも無く。


「ダメか……おい、〈幽冥の聖騎士〉、離せよ」


『なーんだ、覚えてたのかい』


 その声はつまらないというように息を吐き出した。


『忘れられてるかと思って、ビルに潜む謎のボス感出そうとしてたのに』


「忘れるわけないだろ、あの日俺に……いや、久遠もだから『俺たちに』だな。もう一度チャンスを与えてくれたときに、喋ったし」


『あー、ね。さすがは何度も至難のクイズを正解してきている者たちだ。記憶力すごいね』


 残念ながら、こいつに褒められてもあまり嬉しくはならない。俺は更に続けた。


「離さないならいい。だがその代わり答えろ、此処はなんの建物なんだ?」


 横から久遠が「単刀直入過ぎるだろ!」と無声音で言ってくるのが聞こえるが、俺は気にしない。おそらくコイツは――〈幽冥の聖騎士〉は、頭はおかしいが会話はできるやつだ。ひょっとしたら、答えが得られるかもしれない。


 ――だが、やはり俺の考えは甘かったみたいだ。


『はぁ』


 スピーカー越しに聞こえる呆れたようなため息。


『まったく、君たちはどういう答えを私に要求しているのかね』


 〈幽冥の聖騎士〉は嗤った。


『此処が世界を操っている中心部です、との答えかね。それとも私の私有マンションだよ、という答えでもよろしいのかね』


 黙り込む俺たちに、そいつは更に追い打ちをかけた。


『……だんまりかい。まぁいい、こちらからは【暁の層楼】を探ろうと思った君たちの勇気を称えてこの言葉を送るよ。「教えるわけねーだろ、ばーか」』


 ウィーン、ウィーン、ガシャン。


 巨大アームが廊下を伸びていく。俺たちをつかんだまま、アームが向かうのはあのエントランス。


『じゃあ、またな。もう二度と来ようと思うなよ、こうなるだけなんだから』


 〈幽冥の聖騎士〉のその言葉とともに、俺と久遠はポイッとビルの外に捨てられた。昼下がりの広場に放り出される俺たち。


 その後、正面入口は静かに閉まり、俺たちの探索はあっという間に幕を閉じた。おそらく自分たちの足で進んでいけたのは、エントランスに入ってから何十歩というくらいだろう。


 早々に気づかれて、放り出されてしまった。さすが〈幽冥の聖騎士〉だ――性格が悪い上に、口まで悪かった。














 俺たちは顔を見合わす。


 そして二人でニヤリと笑った。


「「作戦成功、だな」」

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