第3話 この世界の仕組みは


 この世界を理解するためにはまず、定期的に行われている「命を懸けた早押しクイズ」について説明をせねばなるまい。


 この世界の俺たちは、それぞれ割り当てられた家に住んでいる。家の様式は竪穴住居や近未来のビルディングなどではなく、普通の、今の時代と同じような建物だ。一軒家もあるし、アパートやマンションもある。商店街やショッピングモールのような商業施設もあるし、その点においては元の世界と違う点はない。


 しかしハッキリと違う部分もある。まず学校。これは、この世界には無い。義務教育という概念すらないし、教師や生徒といった役割もない。ただ一つ、取り上げるとすれば……この世界の人たちは常に勉強している。図書館や自習スペース、公共施設のパソコンルームは常にいっぱいだ。それもそのはず、この世界の人々は例のクイズの為だけに生きているのだから。


 学校がない分、誰か教えてくれる人が居ない分、自分で本やウェブや何やから知識を得るしかないのである。読み込んで読み込んで、勉強して勉強して勉強して……そうして本という本を、知識という知識を己のものにしていく。これが早押しクイズで勝ち残る方法であり、この世界を生き抜くすべである。


 ピロンッと、軽快な音。


 おっと、丁度早押しクイズ開催の通知が来た。開催日は特に決まっておらず、三日から五日のスパンでこうして俺たちの携帯端末に通知が来る。それを受け取ったら、開始時間に間に合うように俺たちは指定された会場へ向かう。そしてゲームスタート……という流れだ。


 さて、今回の通知の内容は。


『この世界の住民の諸君、ご機嫌よう。

 本日も14時30分から早押しクイズを行おうと思う。場所は【日時計の鐘】の前の広場だ。ルールはいつも通り、遅刻、ルール違反、解答ミス、そして解答を送信するのが一番最後になってしまった者には死を、それを免れた者には次回のクイズの参加権を与えるものとする。さぁ、葦として生き抜く術を考えろ!


 〈幽冥ゆうめいの聖騎士〉』


 〈幽冥の聖騎士〉――このメール通知の差出人は、いつもこいつだ。こいつが世界の主なのか、クイズを運営しているのか。俺はそう検討をつけているが、実際のところは分からないというのが本音だ。


 【日時計の鐘】。これは町のようになっているこの世界の東側にある大きな鐘つき堂のような建物のことである。その下に広がる憩いの場は、よくクイズの会場になっている。俺もこの世界に来てから何度も足を運んだから、行き方は問題ない。


 さて、それじゃあ出発するか。

 生死を分ける、早押しクイズゲームへ――。

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