第2話 転生前の俺の姿は


 記憶をたどればおそらく、俺はこの謎の世界に来る前は「男子高校生」だった。東京都郊外にある偏差値は平凡より少し高めの、共学校。修学旅行に行った思い出まではあるから、十七歳頃だったと思われる。


 高校二年生といえばハイスクールライフにも慣れ、進路選択まではだいぶ時間があるという学年。つまり一番遊べる学年でもある。俺も元の世界では、夏休みは友達と遊びに明け暮れ、週末も課題ややるべきことを終わらせたらゲーム三昧の生活を送るというまさに自由すぎる毎日を過ごしていた。


 そんな俺を襲った悲劇――それは、突然の異世界転移。おそらくこんな話をしても誰も信じないかもしれない。だけれど、これは本当なんだ。本当に、まじで、ガチで「突然の」転移――つまり、交通事故だの屋上から突き落とされただのという「きっかけ」もなく、俺はある日突然「この世界」に放り込まれたのだ。どんなシチュエーションで「異世界」を認識したのかは覚えていない。


 だけれど一つ言えるのは、これはラノベやコミックでよくある「異世界転生」なのではなく「異世界転移」であるということ。違う人の人生を生きるのではなく、俺は前の世界の「俺」と全く同じ記憶、同じ過去、同じ身体を持った俺として、この世界を生きているのだ。


 そろそろネタばらしをしても良い頃だろう。俺がさっきから連呼している「この世界」という言葉。俺が転移した先の、今立っている此処こそが「その世界に住む全員が謎の『命を懸けた』早押しクイズゲームに参加させられて、正解し続けないと生きられないというルールの異世界」なのである。


 まだ分からない人が多いだろう……というか、もちろん俺だって最初来たばかりの頃は、このルールを理解できずに、ただただ戸惑ってばかりいた。だが「慣れ」というものは怖いもので、今の俺にとっては人生懸けた早押しクイズが行われるというのが「日常」で、元いた世界の「日常」が「非日常」。


 文化祭準備が大変だの、数学の授業がマジで眠いだの、体育祭のリレーのときのナツミさんの体操着姿が頭から離れないだのという健全な男子高生の考える諸々が、今となっては夢のまた夢なのである。

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