未来予知少女:猫月ユメの恋は終わらない

希咲 ルナ

Part1

この世の中は平凡だ。

ただ生きて、突然死んだりする。

とても不完全なものだ。


もし、それらを自由に制御できる力を手に入れたら。

超能力でその運命に抗えるのなら、みんなそれを欲するのだろうか。


例えばもし、予知能力というものを手に入れられるのなら、

みんなは欲しがるのだろうか。

アニメや映画を見る限り欲しがる人が多いのだろう。


奇しくも、予知能力を手に入れた私、猫月ユメは実のところなんとも感じていなかった。

物心がついた時からふとした瞬間に未来の映像が見える時があった。

それは、今日の夕食の風景だったり、来週の授業の風景だったりさまざまだった。


物語や周りの子たちに話を聞けばそれは、よくあることなんだなって私は思ってった。


けど、中学に入った頃からだんだんとそれが完全な予知能力なんだということに気づいた。

それは数秒後の出来事や、数年後の出来事かもしれない。

でも確かに全て起こっていることなんだと理解した。


そう、よく物語であるような変わるかもしれない未来ではなくて、

どんな行動をしようと必ず訪れる未来の光景をみることができる能力なんだと。


未来予知の頻度は様々で半年に一回くらいの時もあれば、週2くらいの時もある、

なんとも気まぐれな能力だった。


見る未来予知は様々な場面で、重要なこともなんともない光景も様々だった。

だから私はだんだんとその意味を考えなくなっていった。


それが予知能力なんだと気づいてから少し経った中学2年の春、私は不思議な未来の予知を見た。

桜の舞い散る並木道で私は周囲の桜に負けないくらいに赤い血を両手に染めて、道路に横たわり憎たらしいほどの青空に手を伸ばしている様子だった 。

伸ばしたてからポタポタとこぼれ落ちる鮮血と、視界に映る前髪も赤く染まっている。

そして私は一言、

「アイシテル...」

そう呟き、視界が暗転する未来だ。

そんな一瞬の未来予知だった。


私はその予知を見てから不思議に思った。

なぜ血まみれなのか?

私は車に轢かれるのか?

なぜ"愛してる"と言ったのか?


全てがわからなかった。

でもわかるのは自分が死んでしまうかもしれない未来が来るかもということ。


そんな未来予知を見たことがないし、対して意味なんてないと思ってた。

ただ、死ぬかもしれない未来があるというだけで、

それはそれで受け入れようと私は感じていた。

この何をしても必ず訪れる未来予知に私はすっかり慣れてしまい、

運命に抗うなどということはすっかり忘れてしまっていた。

そして一週間後には私はその未来予知のことを忘れていた。


そんな死期を感じる未来予知など記憶の彼方へと飛んでしまった。

血の未来なんてどうでも良くなるくらい幸せな、ラブレターが下駄箱に入っているという未来予知を見たからだった。


私は小さい頃から恋愛物語や恋愛小説が好きで、いつも彼氏を作っていろんな恋人の日常をすることを想像していた。

けど人見知りで猫のように周りの人を遠ざけて、わずかな人に懐いて甘える私の性格上、そんな出会いはまずやってこなかった。

男友達がいないわけじゃない。

でも、男だから誰でもいいわけじゃなくて、

ちゃんと理想の王子様に迎えにきてほしかったのが私という夢を見る猫のような少女だった。


そんな私にとってラブレターが届くかもしれないというのはすごくおっきなイベントだった。

しかもそれが確実にある未来でしかも今通っている中学の下駄箱で、中学に通っている間にそんなイベントが起こるということはその他の全てがどーでも良くなるくらい、素敵な気持ちで溢れた。


それから数日経った後、

私は体育の授業で足首の捻挫をしてしまった。

親は2人とも仕事を早退できなかったので、諦めて自力で足を引き摺りながら家に向かった。

その時、駅前で同い年くらいの男女5人の集団が仲良く楽しそうに話をしていた。

私は楽しそうだな〜と横目で見つつ歩き、そのまま目の前にあった段差につまずき、思いっきり顔面から地面に倒れ落ちた。


ドサッ


大きな音をたて転んだ。

すると、その集団が駆け寄ってきてみんな口々に大丈夫??と聞きながら、散乱した荷物をまとめたり、体を起こしたしするのを手伝ってくれた。


そのうちの1人が私の足を見て、

「もしかして怪我してるの??」

と聞いてきた。

私は、今日の授業でと答えた。

すると

周りの4人が送ってあげなよとその青年に笑って言いながら肩を叩いた。

青年は苦笑いした後、私に笑顔を見せて、

「きみ、よかったら家の近くまで肩をかすよ」

といった。

私はその笑顔で頭の中の王子様とその青年が一致したかのように思えて、

お願いします!!と大きな声で頼んだ。


それを見てその集団はさらににこやかに笑った。


それから青年に肩を貸してもらい、荷物を持ってもらって家まで向かった。

青年は中学3年生で名前は田中と言うらしい。

下の名前はと聞くと、コンプレックスだから言いたくないと言われた。

それからはなんだか気まずくなってお互いに黙ってしまった。

最寄りのコンビニまで来たので、

「もう大丈夫。本当に助かったありがとう。」

と伝えると、田中くんも

「こっちこそ、猫月さんとお話できて楽しかったよ。元気でね。またいつか。」

と言った。

私はその"またいつか"という表現でいろんな感情が噴き出してしまい。

次の瞬間にはSNSのアカウントを聞いていた。

田中くんは少し困った表情をしながらいいよと答え交換してくれた。

私はアカウントで繋がれたことが嬉しすぎて他の些細なことなどどうでも良くなっていた。

私たちは今度こそさよならをして別れた。


それから一ヶ月。

あっという間に意気投合し、

私と田中くんは一緒にカフェに行ったり、公園で話したり、夜もDMで長話をしていた。

とても幸せな毎日で、私、猫月ユメにとって本当に夢のような日々だった。


「ユメ、下駄箱に何か入ってるわよ??(クスッ)」

そう、クラスのギャル系の女の子たちにそう言われて下駄箱を覗くと未来予知で見た通りの光景が広がっていたのは中学2年の夏休み前だった。


私はギャル系女子に見られたのが恥ずかしいと思いながら、ゆっくりと手にとってみた。

それはどこにでもあるような白い封筒に"ユメ様へ"と宛名が書かれているだけのシンプルなものだった。


渡し主がどこかに隠れてみているんじゃないかと思い、周りを見てもそれらしき人物はいなかった。


私は封筒を隠し持ち学校を出て近くのカフェに寄った。

注文するのは、ほうじ茶ラテ。

それも一番大きいサイズだ。


コップを受け取ると、私は窓側のカウンター席に座りラテを一口飲んだ。

今日はちょっと熱く感じるな...と思い、唇を触った。

少しやけどしたかもしれない。

私はコップを机に置き、ずっと気になっている目の前の封筒に触れてみた。

本当になんの変哲もない封筒だった。


「本当にただの封筒なのよね...」


私はそう呟きながら封筒を開けてみた。

すると中から、"一年前の自分へ _猫月ユメ"というタイトルとわずかな文章の書かれた手紙が入っていた。


「一年前の自分??...未来の私??」


私は困惑しながら手紙を読んでみた。

「[一年前の自分へ_猫月ユメ]

今これを読んでいる私は中学2年の夏頃だと思います。

私は半年後、来年の春の私です。

この手紙はあなたが近い未来に出会う転送能力を持つ人の力を借りて、

未来予知と転送能力の二つの力を合わせて過去に手紙を飛ばしました。

しかし、このように手紙を過去のあなたに送ることはもうできません。

なぜなら、その転送能力を持っている人は死んでしまうからです。

だからこの手紙の内容をしっかり覚えていてください。


あなたはそろそろ、"ハル"という人と会うと思います。

そしてあなたは心からその人に惹かれると思います。

でも決して、その人と仲良くなったりしてはいけません。

その先にあるのはお互いの破滅です。


だからどうか、ハルとは関わらないでください。

あなたの未来のために。」


そんな内容だった。


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