第25話 『天敵』

「――秘剣・風林華閃っ!」


 開幕と同時、不可視の斬撃がボスを強襲した! セレナの渾身の一撃すら、ボスは一切怯まず突っ込んできた!


「なんですって……!?」

「セレナ、一旦退け!」


 俺はセレナの後退を確認しながら、高速刃クイックカッターをボスに浴びせた! 複合状態異常がボスを襲うも……


――ARYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!


 ボスは咆哮ほうこうしながら、大きく踏み込んだ! 俺たちは翔んでかわすも、衝撃波で壁に叩きつけられた!


「かはっ……!」


 口内に広がる血の味……いつ以来だ? ボスは特になんの『変化』もなく、緩慢に接近してきた。こいつもリラ同様、耐性持ちか。

 面白ェ……俺自身の『課題』をこなすには、打ってつけの相手だ。


 ボスが大きく振り被る! 野郎、遺跡内でもお構いなしか! 巨体な分、広い空洞も狭く感じる。避けるのは容易いが、セレナが巻き込まれる!


 俺が強く念じると、ブーメランは瞬時に俺の身の丈ほど巨大デカくなった! 精霊の恩恵を受けているので、俺のイメージ通りの形になってくれる。


――ドゴォ!


 正面から、ボスの巨剣を受け止めた! 両足が地面にめり込んだが、力負けしてねぇ。俺のステータスは、ボスにも負けず劣らずだ。

 ボスは無表情のまま、今度は蹴りを繰り出してきた。野郎、切り換えが早いな。


――ガシッ!


 ボスの蹴りをセレナが、太刀で受け止めた!


「アレク! あなたの『悪いクセ』は、一人でこなそうとすることよ。補い合うのが『仲間』なんだから、もっと『周り』を頼りなさい!」


 仲間……?

 頼る……?


 驚いた。レン以外、俺に『味方』がいたことが。最初の迷宮で裏切られ、奈落で4に掛けた。過去イチ生を渇望し、4地からの生還を果たした。


 レン以外、信じられなかった俺をセレナは『対等』に見てくれていた。これが、俺の見えない『課題』だったかもな。


「そうだな……ここは頼らせてもらうぜ!」


「ここだけじゃなく、“いつも”頼っていいわ! 私が注意を引き付けるから、その隙にダメージを与えて頂戴!」


 セレナは残像を残して、裏側に回り込む。目にも止まらぬ抜刀で、ボスのけんを斬り膝をつかせた。セレナは『ブレイク』特化型か。


 俺は正面から『全力刃フルパワーカッター』を投げ込むも、大して効いてる様子はなかった。


――お前、攻撃力なさ過ぎなんだわw


――チマチマやってりゃ、いつかは倒せるだろw 何年掛かるか知らねーけどよ。


――必中以外、なんのスキルも使えないクセにw


 チッ……! 脳裏に蘇る忌まわしい記憶。必ず命中するとは聞こえはいいが、“倒し切らなければ”意味がない。

 状態異常もほぼ通らず、おまけにセレナに斬られた腱も『再生』していた。『決め手』に欠け、このままじゃジリ貧だ……!


 この迷宮ボスコロッサスは、まさに『天敵』とも言える存在だ。


 俺の頭の中は、どうやったらこのボスを『倒し切る』かでいっぱいだった。故にセレナが、何か叫んでいるのを聞き逃していた。


「アレク……! 避けてっっ!!」

「…………っ!?」


 我に帰った時、ボスの赤く発光した巨拳が眼前に迫っていた。これは“ガード不能攻撃”、凶悪種以上が放ってくる要注意行動だ。

 直撃すれば即4、しくは瀕4だ。俺としたことが、初歩的ミスを……!



「――やらせないッスよぉおおおおっっ!!」


――ドガァアアッッ!!


 目の前の光景が、俺には緩慢スローモーションに見えた……。


 カマキリに、右腕をられた時以来だ……。


 リラが俺のダメージを『肩代わり』してふっ飛び、岩盤にクレーターが出来た……。


 俺を庇って…………


「――リラぁああああああああああああああっっ!!」


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