『うさぎと機関銃』★

 そのぬいぐるみは、赤い目をしていた。

 ビー玉を二つくっ付けたような目で、どこに焦点が合っているのか分からない。

 実際、ちゃんと見えているのかどうか甚だ怪しい。

 だが、その赤い目は、遠く離れた四方に散らばり隠れている敵の居場所をしっかり見据えていた。


 ふさふさの毛皮は、雪のように白く、綿あめのように柔らかい。

 所々に血痕が付着しているが、そのどれもが倒した敵の返り血だった。


 頭の天辺から生えている長く大きな二つの耳は、ぴんと伸びているかと思えば、急に何かの音を察知して、ぴょこぴょこと動く。

 敵の居場所を知るためのレーダーのような役割をしているのかもしれない。


 顔の真ん中には、小さな鼻がひくひくと動き、きゅっと引き結んだ口元から細長い髭が生えている。


 どこからどう見ても、うさぎのぬいぐるみだ。

 ただ、身長は人間の大人程もあり、首から下は、人の姿をしている上に、服まで着ている。

 赤い燕尾服に白いシャツが胸元から覗く、まるで紳士のような着こなしだ。


 うさぎは、燕尾服の内ポケットに白い毛皮で覆われた手を入れると、何かを取り出して、中を見た。

 それは、表面に精巧な細工が施された金の懐中時計だった。


「……時間だ」


 うさぎは、懐中時計を仕舞うと、もう片方の手に持っていた機関銃を肩に構えた。

 そして、突然素早い動きで駆け出すと、隠れていた敵を狙って射撃する。

 耳をつんざくような人の声と、銃声が辺りに鳴り響く。

 相手も応戦して来たが、素早い動体視力と反射神経で攻撃を交わし、銃を向けた。

 うさぎに死角はなかった。

 あっという間に敵を殲滅すると、辺りは血の海となった。


 うさぎは、機関銃を背中に背負い、一軒の建物の中へ入って行く。

 中には、たくさんの人間の子供たちがいた。


「迎えに来たよ」


 うさぎに気付いた一人の少女が顔を上げ、抱きついてくる。

 うさぎは、少女を抱き上げて言った。


「おいで、家へ帰ろう」

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