『愛妻弁当』★★

 妻と喧嘩をした。

 原因は、俺の足が臭いとか、トイレが長いとか、そう言ったくだらない理由だったと思う。

 と言うのも、俺は、何故、妻が怒っているのか分からないからだ。

 ただ、いつもなら、俺が目覚ましをセットしている時間に起きて来ないと、妻が俺を起こしてくれるのに、今朝に限って起こしてくれなかった。

 だから、きっとこれは何か俺に対して腹を立てているに違いない。

 その所為で、俺は、寝坊をした。このままでは、大遅刻だ。

 俺は、この理不尽な仕打ちに腹を立て、妻に悪態をつきながら急いで服を着替えた。

 そして、玄関に置きっ放しにしていた会社鞄を持つと、家から駅まで走り、ホームの階段を駆け上り、電車を降りて、また走った。

 会社へ着いた時には、全身汗だくだった。


「よぉ、重役出勤だな。奥さんと喧嘩でもしたのか?」


 同僚が嬉しそうな顔で話し掛けてくる。

 独身のやっかみだと思い、俺は、鼻であしらうことにした。

 午前中の業務を終えて、昼休みの時間になった。

 寝坊をした所為で朝飯抜きだ。空腹だった。

 どこか食べにでも行くかなと考え、鞄から財布を出そうとして、そこに見覚えのある巾着袋が入っているのに気が付いた。

 弁当だ。

 どうやら妻が用意してくれていたらしい。

 俺は、妻の献身に感動を覚えながら、弁当の蓋を開けた。

 すると、中身がぐちゃぐちゃになっていた。

 朝、俺が走った所為だろう。

 俺は、それを全部綺麗に平らげた。


 家に帰ると、まだ妻が起きていた。

 俺は、空っぽになった弁当を流しにそっと置いておいた。

 言葉はいらない。夫婦なのだから、これで俺の気持ちは伝わるだろう。

「あ、机の上に置いてある饅頭、お土産ね」

 その時、俺は、妻が昨日から友人と1泊旅行へ出掛けていたことを思い出した。

 昨日は、外回りの後、接待だったため忘れていた。

 と言うことは、俺が食べた弁当は……

 その夜、俺は腹を壊し、トイレが長いと妻に怒られた。



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