ひとりのきつね

@sock-4723

プロローグ

「『ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら。』と、つぶやきました。────おしまい。さあ、絵本も読み終わったし、もう寝ようか」

「お母さん、きつねさん、人間から手袋買えてよかったねえ」

「よかったねえ」

「お母さん、ぼくも大きくなったら、人間とおともだちになって、仲よくしたいな」

「……。できるように、がんばろうね」

「うん!がんばる!」

「さぁ、布団をちゃんとかけて寝るのよ。それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」





ふと、彼の脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。母の手のぬくもりと、優しい声色。毎日のように読んでボロボロになった、彼が一番好きだった本、「てぶくろを買いに」。ふわふわの毛布。しま模様の青いパジャマ。

あの本をを読んだら幸せな気持ちで眠れた。

久しぶりに読もうかな。

彼は頭から飛び出たきつねの耳をぴょこっと動かした。

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