第二章 わたしの名前はミキ

第11話 オ、オンザロックをもらおうか

「ナニノミマスカ」衣服を片付けて戻って来たママが俺の肩へ親し気に手をかけたあとカウンターの中へ入り改めて注文をうかがう。言葉にイントネーションがない変な日本語である。ハハアと俺はいまさらながら合点した。このママさんは外人さんだ。俺への始めのコンタクトの仕方がすべてジェスチャーだったのもそのせいかとも思うが、しかしいくら何でもいきなりのあの大盤振る舞いはないだろうとも思う。俺はママの背後のバックバーに目を移し置かれたボトルの数々を確認し始めた。ウイスキー、ラム、ジン、ウオッカ、リキュールと一揃いあり、名札のかかったものもあるのでボトルキープも出来るのだとわかる。あれだけいい思いをしながら現金なもので俺は価格がまず気にかかった。ウイスキーのオンザロック一杯でいくら取られるのだろう?俺がこの手のバーに入る時のお決まりのメニューなのだが。まさか奥に怖いお兄さんのいるボッタではあるまいな…などとあらぬことまで気をまわしてしまう。しかし鍵を開けて入ったのだからそれはあるまいなどなど、何せ先述した通り俺は金も地位もない、ついでに云えば男気もない、ただの一介のしがない野郎でしかないのだ。致し方のない習い性である。「ウイスキー、カクイッパイ、センエンネ」俺の心中の不安をおもしろがるようにママが伝える。ついでに「ココ、アナタトワタシ、フタリキリ」とものたまわった。俺は目を丸くしてまさか読心…?と一瞬でも疑うのだがとにかく体裁をつくろうかのように軽く咳払いをしてから「ああ、じゃあオ、オンザロックをダブルでもらおうか」と注文した。ダブルはこれでも見栄を張ったつもりなのだ。

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